研究課題/領域番号 |
23K17991
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 生体膜 / リン脂質 / リゾホスファチジン酸アシル基転移酵素 / 膜タンパク質 / 膜輸送体 |
研究実績の概要 |
膜脂質は、物質の膜透過を担う膜輸送体など、あらゆる膜タンパク質と直接相互作用し、それらの機能発現に必須の役割を果たす。従って、様々なバイオプロセスの開発等において膜タンパク質の機能や膜が関わる細胞機能を強化する上で、適切な膜脂質組成を作り出すことは重要である。本研究では膜タンパク質と強く相互作用する膜リン脂質アシル鎖の酵素的操作技術を開発し、膜輸送体の活性化などへの有効性を実証することに取り組む。当該年度は、リン脂質のsn-2位にアシル鎖を導入するリゾホスファチジン酸アシル基転移酵素 (LPAAT) を用いた細菌細胞膜脂質の組成改変と、Escherichia coliのL-アラニン排出輸送体 (AlaE) 活性への影響解析を行った。まず、互いに異なる基質特異性を有する4種のLPAAT(Shewanella livingstonensis Ac10由来のPlsC1、PlsC4、PlsC5とE. coli由来のYihG)のそれぞれとAlaEを共発現するE. coli MG1655を構築した。これらの膜リン脂質組成を解析した結果、YihGを発現させた株においてミリストイル基 (14:0) を含有するリン脂質とバクセノイル基 (18:1) を含有するリン脂質の顕著な増加が見いだされた。また、パルミトイル基 (16:0) を含有する一部のリン脂質について顕著な減少が観察された。一方、これらの細胞にL-Ala-L-Alaを添加し、細胞内で生成するL-Alaの細胞外への排出量を調べた結果、YihG発現株において、LPAAT遺伝子を導入しなかった対照株に比べて約2.5倍の排出量が観察された。これらの結果から、膜脂質組成の改変が膜タンパク質の活性向上をもたらし、細胞機能強化における有効な手段となり得ると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPAAT遺伝子の導入による生体膜脂質の組成改変や膜タンパク質の活性向上が可能であることを実証し、本研究の基本的な概念の証明という点で大きな進展があった。一方、現時点ではリン脂質組成改変に利用できるLPAATの種類が限定的であり、活性向上を示した膜タンパク質も一種にとどまることから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
生体膜のリン脂質組成改変に利用可能なLPAATの開発に取り組む。これまでの検討により、低温菌S. livingstonensis Ac10由来のLPAATを用いた場合、E. coliの膜リン脂質組成に顕著な変化が生じないことが見いだされている。そこで、E. coli中での高い安定性と活性が期待される中温菌由来のLPAATを用いたリン脂質組成改変を試みる。また、基質特異性が異なる多様なLPAATのキメラ酵素作製などにより、LPAATの基質特異性の多様化を試みる。一方、多価不飽和脂肪酸合成酵素群やフラン環含有リン脂質合成酵素群の導入により、リン脂質アシル鎖のさらなる多様化を試みる。リン脂質組成改変の影響を検討する膜タンパク質として、これまでに主な対象としていたAlaEに加えて、グルタミン酸排出体やシステイン排出体を対象とするほか、タンパク質分泌装置への影響や細胞外膜小胞形成への影響も解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、多様な基質特異性を有するS. livingstonensis Ac10由来のLPAATパラログを用いてE. coliの膜脂質組成を改変することを試みたが、予想に反して大きな膜脂質組成の変化は見られなかった。これらの酵素の熱安定性の低さが原因と考えられたため、より安定性の高い中温菌由来の酵素を用いることに方針を変更した。それらの発現プラスミドの構築などを次年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じた。未使用分は、種々の発現プラスミドを構築するための遺伝子工学用試薬、膜輸送体などの活性評価に用いるための分析用試薬、培養用試薬、プラスチック器具などの消耗品購入に使用する計画である。
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