研究課題/領域番号 |
23K17997
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
坂本 卓也 神奈川大学, 理学部, 准教授 (40637691)
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研究分担者 |
浦口 晋平 北里大学, 薬学部, 講師 (20638837)
三輪 京子 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50570587)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ホウ素 / ヒストンアセチル化 / mintbody |
研究実績の概要 |
本研究では、植物の必須栄養元素である「ホウ素」が示すヒストンアセチル化の亢進作用に着目し、「ホウ素が各組織に適切な遺伝子発現制御をもたらすクロマチンプラットフォームの構築に寄与する」という仮説を検証する。そのために、①細胞および組織レベルでの細胞内ホウ素濃度とヒストンアセチル化レベルとの因果関係と、②各組織の発生・分化などに関与する遺伝子発現制御に、ホウ素によるヒストンアセチル化作用が直接的に寄与する可能性について検証する。 初年度は、①に関連して比較的性質が均一なシロイヌナズナ培養細胞を用いて検証を行った。その結果、新たな知見として、ホウ素によるヒストンのアセチル化亢進作用には特異性があり、ヒストンの中でも特にヒストンH3のアセチル化に作用することが明らかとなった。また、組織レベルでの解析のために、ヒストンH3K9のアセチル化を検出するライブイメージングツールmintbodyの確立を試みた。現状では、シロイヌナズナの細胞内で、このmintbodyがヒストンアセチル化レベルの変化に応答することが確認されている。今後は、シロイヌナズナ培養細胞およびシロイヌナズナのmintbody発現個体を用いて、より詳細に細胞内ホウ素濃度とヒストンアセチル化レベルとの因果関係について検証していく。 また、②に関連して、未分化状態からの発生・分化過程を追跡可能な植物の組織培養によるシュート再生系を用いて、発生・分化に必須なヒストンアセチル化にホウ素が寄与するかどうかの検証も行った。その結果、特定のホウ素濃度条件では、再生が促進される可能性が見出された。今後は、このときのゲノムワイドなヒストンアセチル化や遺伝子発現の状態も含めて、より詳細に、発生・分化に及ぼすホウ素の影響を検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
培養細胞や植物個体を生育する研究環境の構築に予想以上の時間がかかったことと、培養・栽培に用いる装置の故障があったことで、全体的に研究の進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞においても、ホウ素投与によるヒストンアセチル化レベルの増加が観察されたことから、クロマチン免疫沈降シーケンス法を用いて、ホウ素投与によるヒストンアセチル化レベルの変化をゲノムワイドかつ詳細に解析する。同時に、ホウ素投与による遺伝子発現の変化をRNA-seq法で、そして細胞内ホウ素濃度を質量分析法で解析する。これにより、細胞レベルでのホウ素濃度とヒストンアセチル化レベル、及び遺伝子発現との関係性をゲノムワイドに検証する。また、シロイヌナズナの組織レベルでの解析も、ライブイメージングツールを利用して行う。mintbodyがヒストンアセチル化の解析に利用できる可能性が示唆されており、ホウ素投与後の根端組織における各細胞のヒストンアセチル化レベルを解析する。同時に、細胞内ホウ素濃度センサーを用いた組織内の各細胞のホウ素濃度の解析も試みる。 また、組織培養によるシュート再生系において、シュート再生効率に与えるホウ素の影響をより詳細に解析する。具体的には、シュート再生に関与する遺伝子の、ホウ素投与による発現量やヒストンアセチル化レベルの解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞や植物個体を生育する研究環境の構築に予想以上の時間がかかったことと、培養・栽培に用いる装置の故障があったことで、全体的に研究の進捗が遅たため、次世代シーケンサーを用いるクロマチン免疫沈降、RNA-seqといった、本研究のメインとなる実験を実施できなかった。次年度使用額については、一年目に実施できなかった実験にかかる、試薬等消耗品の購入や次世代シーケンス受託解析の利用に用いる予定である。
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