研究課題/領域番号 |
23K18051
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中尾 実樹 九州大学, 農学研究院, 教授 (50212080)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
キーワード | 魚類 / 体表粘液 / 血漿タンパク質 / 移行 / 輸送 / 外分泌 |
研究実績の概要 |
本研究では、異物タンパク質としてニワトリ卵白リゾチーム(HEL)を用いた。HEL溶液をコイおよびキンギョの腹腔内に投与し、経時的に尾静脈からの採血と体表粘液採取を行い、投与したHELの血中への取り込みと、体表への分泌を追跡した。血液・粘液中のHELは、ウエスタンブロッティングによって検出したが、本研究ではまず、この検出に最適な抗HEL抗体および検出条件を検討した。抗体には、当研究室で独自に作成したポリクローナル抗体(ウサギ)、市販のポリクローナル抗体(うさぎ)および市販のモノクローナル抗体(マウス)を供試して比較したが、モノクローナル抗体と化学発光を組み合わせた検出系によって最も高い検出感度(約1 ng)を得られることが判明した。次に、コイおよびキンギョに腹腔内投与したHELの移行を経時的に追ったところ、血中からは数時間でHELが検出されたのに対し、体表粘液中にHELが検出されるようになるには、12-18時間を要することがわかった。また、粘液中に移行したHELは投与したHELの1%未満であることから、投与したHELの大半は異物タンパク質として体内で分解を受けていると推察された。内因性のタンパク質の体表粘液への移行について調べるために、コイ補体成分C3、コイ血清アルブミンを精製し、それらのビオチンによる標識を行った。現在、これらのコイおよびギンブナへの投与試験を実施している。また、これらビオチン化タンパク質の免疫組織化学的分布を検討するために、皮膚および腸管の組織切片の作成を終えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モノクローナル抗体によるHELの高感度検出法の確立に成功した点、腹腔内に投与したHELの体表粘液への移行速度を推測できた点、および内因性タンパク質の化学標識の調製を終えることができた点から、概ね順調に進んだと判断した。なお、異物タンパク質は、体表粘液への移行中に大半が分解・消失することがわかった点は、当初の予測を超えた新知見であり、本年度における重要な知見であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度の研究では、体表粘液近傍の真皮組織を組織化学的に詳細に解析し、粘液へのタンパク質の移行経路を追跡するが、まずは分解の可能性が低い内因性のタンパク質を主なモデルとして用いる。また、上皮細胞株の単相培養を活用して、タンパク質が上皮を超えて輸送される機序を解明するための、in vitro実験系の確立にも取り組む必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
R5年度の実験では、異物タンパク質として投与した卵白リゾチームが魚体内で体表に移行するまでに、予想以上に分解・消失してしまうことが判明したため、卵白リゾチームをモデルとした詳細な実験には進まず、代わりに内因性のタンパク質を標識する実験に切り替えた。そのために、当初予定したいたリゾチームを用いた実験に必要な経費を使用しなかった。一方、体内での分解・消失を克服するために、次年度はin vitro実験系を新たに立ち上げるので、これに次年度使用額を割り振る予定である。
|