研究課題
本申請課題では、タンパク質性の液液相分離は膜のないオルガネラ、新たな細胞内小区画として近年盛んに研究されており、その機能的重要性は今後ますます広範にわたるものと考えられる。このような現状において、タンパク質性の液液相分離の生成・消失を光制御によって自由に扱えるようにすることで、液液相分離の形成・消失機構を高分解能で動的に解析できる系を構築し、液液相分離の形成機構の解明と液液相分離を利用した新たなタンパク質材料の創出をすることを目的とする。R05年度は、光受容体PYPとその相互作用タンパク質であるPBPの光多量化反応を用いた液液相分離の可否と生成した液液相分離した凝集相に対する物性を評価した。液液相分離を示すFUS(Fused in sarcoma)タンパク質のN末端部位低複雑性領域(FUS-LC)とPBPを融合させたタンパク質PBP-FUSの塩濃度依存性、温度依存性などの諸物性の測定から融合タンパク質がFUS-LC同様液液相分離を示すこと確認した。PYPとPBP-FUSの混合状態ではUV光照射によって液液相分離が形成され青色光照射によって液液相分離が解消した。この反応において一定量のPYPに対してPBP-FUSの濃度を変えると、本来より液液相分離が進行しやすい高濃度PBP-FUSにおいて光照射による液液相分離の形成が起こらなくなった。これは、光誘起液液相分離の進行がPYP-PBPで形成される多量体のサイズに依存していることを示している。PYP濃度に対してPBPの量が多い場合形成される複合体の多量化度を小さくなることから液液相分離の形成が抑制されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
申請時想定していたようにPYPとPBP-FUSによる液液相分離は、FUS-LCによって生じる液液相分離と同等の諸物性が確認され、光によって生成・消失を制御できるタンパク質性液液相分離系の構築が確認された。さらに、PYP-PBPの相互作用に基づく複合体の多量化度によって液液相分離の形成を制御できることを明らかにできた。このことは、液液相分離の形成における粒子間相互作用の大きさと粒子濃度の関係をより詳細に検討できることを示しており当初計画通り液液相分離形成機構の解析につながる。
光誘起性の液液相分離形成機構の解明に向けて、PYPとPBP-FUSの複合体同士の液滴の融合増大化反応過程の解析を行う。PYP-PBP-FUS系の液液相分離では、複合体のサイズに依存して液液相分離の形成に必要な粒子濃度が異なる。多量化したPYP-PBP-FUS同士の凝集が進行していることが推察されるが、その際に単分子のPBP-FUSやFUS-LCが液滴に融合していくことができるのかは光誘起性の液液相分離系では不明である。この検証のため蛍光タンパク質と融合したFUS-LCの作製と蛍光顕微鏡下における液滴の形成過程の観察を主軸として物性の評価を行っていく。さらに、FUS-LCとともに凝集相を形成するRNApol-IIのC末端LC領域(RNApol-II CTD)などの配列や、FUS RGG領域などの配列を用いて凝集の成長過程を評価していく。光刺激によって液滴形成を開始できることからより時間分解能の高い液滴形成過程を解析できる。また、これらの単分子FUS-LCなどが液滴形成に関与する際の濃度条件、溶媒条件などの検討からも液滴形成過程の解析を行う。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
The Journal of Physical Chemistry B
巻: 127 ページ: 7872~7886
10.1021/acs.jpcb.3c04032
https://mswebs.naist.jp/LABs/kamikubo/index.html