研究課題/領域番号 |
23K18111
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 眞理 京都大学, 医学研究科, 客員准教授 (90761099)
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研究分担者 |
樽本 雄介 京都大学, 医生物学研究所, 助教 (70551381)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | テロメア / 姉妹染色分体融合 / 染色体不安定化 / 細胞老化 / がん化 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究では,染色体末端を保護するテロメアの生理的機能を対象とし,特にその保護機能が破綻した際に生じる異常な染色体構造である姉妹染色分体融合(SCF: Sister Chromatid Fusion)に着目している.テロメアは,単純なリピートDNA配列と,そこに結合するタンパク質群から構成される.細胞が増殖する際のDNA複製によって,テロメアDNA配列は徐々に短くなることが知られ,ある閾値を超えるとテロメアの保護が失われる.このようなDNA複製直後のテロメア機能不全は,SCFを生じる可能性がある.よって染色体異常の抑制という観点からはSCFを抑制する機構があっても不思議ではないが,これまでSCFを簡便に検出する系が存在しなかったため,そのような制御機構の有無を含めてよくわかっていない.そこで本研究では,独自に開発したSCF検出レポーター細胞(FuVis2)を用いて,SCFの制御に関わる因子のスクリーニングとその機能解析を目指す. FuVis2では, X染色体の短腕テロメア近傍に挿入された人工のレポーターDNA配列を利用して,CRISPR/Cas9を用いて人為的にSCFを引き起こすことができる.その際,姉妹染色分体のレポーター配列間の融合をとmCitrineで,単一のレポーター配列内での欠失変異をmCerulean3で,それぞれ検出できるレポーターとなっている.当該年度においては,共同研究者が作成した網羅的sgRNAライブラリーを用いて,平均1遺伝子がノックアウトされたFuVis2細胞を作成し,その後SCFを誘導してmCitrine,及びmCerulean3細胞をソーティングによって回収した.これらの細胞からDNAを抽出し,sgRNA配列をNGSで解析することによって,mCitrine, mCerulean3発限細胞において存在比が変化しているsgRNA配列を複数得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年度目では,計画に沿ってゲノムワイドsgRNAライブラリーの設計・構築,レンチウイルスを用いた細胞への導入を行なった.細胞への導入においては,各細胞が平均して1つのsgRNAを持つことが経験的に知られている約30%程度の感染効率条件を用いた.これらの細胞集団に,レポーター配列をターゲットとするsgRNAをさらに導入し,レポーター配列のSCF,もしくは欠失変異を誘導した.この細胞集団から,mCitrine及びmCerulean3を発限する細胞をソーティングによって回収した.このようなノックアウトライブラリーによる解析においては,本来はライブラリー数の500倍程度の細胞数の回収が理想であったが,これらの細胞の割合は2~4%程度と非常に低いため,1回8時間のソーティングでも理想的な細胞数の1/100程度の細胞数しか回収できない.そこで,最低2回のNGS解析を行うことを前提として,ライブラリー数の100倍程度の細胞を回収し,DNAを抽出してNGS解析に供した.コントロールとして,レンチウイルスの作成に用いたゲノムワイドsgRNAライブラリープラスミド,ソーティング前の細胞集団,SCFを誘導しなかった細胞集団を同じくNGS解析に供した.その結果,mCitrine,及びmCerulean3発限細胞から回収されたsgRNA配列は,その他のサンプルと比較して異なる配列のエンリッチメントが見られた.これらの解析から,スクリーニングの実行可能性を確認することができたため,おおむね順調に進展していると結論した.
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今後の研究の推進方策 |
1回目のスクリーニングの結果から,mCitrineとmCerulean3発現において特異的に増減していたsgRNAを複数選択し,個別にノックアウト細胞を作成し,スクリーニングの結果が再現できるかを確認し,結果の再現性を検討する. また,2回目のスクリーニングを展開するが,その際には細胞の回収効率をさらに上昇させるため,ソーティングの条件をさらに詳細に検討する.ライブラリー数の300倍以上の細胞数の回収を目標とし,ソーティングを複数回行う.2回目のスクリーニングの結果が得られれば,1回目の結果と比較検討し,両スクリーニングでヒットしたsgRNAを中心に選択し,個別のノックアウト細胞の作成,結果の再現性の確認を行う.再現性が得られたターゲット因子について,過去の報告を精査して機能を特定する.当該機能がSCFの制御に関わる可能性について,同経路内の他の因子が報告されていれば,これらの因子についても同様にSCFの制御の可能性について検討を行い,SCF制御メカニズムを明らかにすることを目指す.また,SCFの抑制はがん化や老化とも密接に関わることが予想されるため,当該因子のノックアウト細胞を長期培養することで,がん化や老化に対する影響について検討を続ける.
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