研究課題/領域番号 |
23K18139
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒木 俊介 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (50735793)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 相分離 |
研究実績の概要 |
ほ乳類のY染色体には性決定遺伝子Sryが存在する。Sryは生殖線の精巣分化を促し、個体が雄になることを決定するマスター転写因子である。種の保存という観点からSryは最も重要な転写因子のひとつである。しかし、1991年にSryが発見されてから約30年が経つにも関わらず、Sryが標的遺伝子を活性化する際の転写メカニズムは不明である。 近年、多様な生命現象にタンパク質の液-液相分離 (以下「相分離」)が重要な役割をもつことが分かってきた。転写においては、DNA配列を認識する転写因子, 核内RNA結合タンパク質やRNAポリメラーゼなど様々なタンパク質が天然変性領域を介して相分離を誘導し、形成された液滴が化学的反応を促進する区画として機能することが明らかとなってきた。 本研究では「液-液相分離」という新たな観点からSryの性決定メカニズムの解明を目指している。 本年度は、マウスの胎生11.5日 (性決定期) の生殖腺で特異的に高発現するクロマチン因子の中から、293T細胞への過剰発現により相分離を起こす遺伝子をスクリーニングした結果、複数の候補遺伝子を絞り込んだ。これらの遺伝子について、各々の遺伝子欠損マウスをゲノム編集により作製しF0世代での解析を行った。胎生13日目の生殖腺をSox9 (雄マーカー)/Foxl2 (雌マーカー)に対する抗体で二重免疫染色し、雌雄の度合いを定量した。その結果、ホモ欠損により性転換が引き起これる可能性のある遺伝子を一つ見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生殖腺に高発現し液相分離能をもつ新規の遺伝子を複数個見いだした。このうち一つについては遺伝子欠損マウスが性転換を起こすことを示すデータを得たことから、計画は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは上述の新規遺伝子が生殖腺においても相分離を起こすことを確認する。この遺伝子の開始コドンにmCherryを挿入した蛍光レポーターノックインマウスを作製し、この生殖腺で形成される液滴をin vivoでリアルタイムに可視化する。タイムラプスイメージングと光褪色後蛍光回復法による動態解析を行い、液滴が相分離現象によって形成されることを検証する。 並行して、この遺伝子欠損マウスを用いて生殖腺のRNA-seq解析とSry強制発現による性転換のレスキュー実験を実施し、性決定シグナル経路への作用点を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に作製を実施したマウスが予想外に致死の表現型を示し、マウス系統の樹立ができなかった。その結果、当初の計画よりも購入するするマウス費用と飼育管理費が少なくなり、次年度への使用額が生じた。 次年度使用額は、代替案として作製中のfloxマウスの樹立と飼育に使用する。
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