研究課題/領域番号 |
23K18155
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
辻 瑞樹 琉球大学, 農学部, 教授 (20222135)
|
研究分担者 |
青沼 仁志 神戸大学, 理学研究科, 教授 (20333643)
下地 博之 琉球大学, 農学部, 准教授 (50726388)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
キーワード | 複雑性 / ソーシャルディスタンス / アリ / 脳サイズ / 衛生行動 / 分業 |
研究実績の概要 |
本研究では,昆虫行動生態学者(辻,下地)と昆虫脳生理学者(青沼)が協力し,アリの生態と脳の種間比較を通し,脳容量の進化機構に関する諸説の妥当性をテストすることを目的とする.社会的相互作用の多さや複雑さを測る指標として,ソーシャルディスタンス(巣の中での働きアリの個体間距離)に注目する.個体間距離はすべての個体間相互作用の潜在的多寡に決定的な影響を与えるパラメーターであると考えられるからである.本研究では,種・系統群に特徴的な個体間距離が存在しアリは距離を自己調整しているとの仮説を立てる.初年度は数種のアリで室内実験巣をカメラ撮影し各種自動計測ソフトを用いた分析により個体間距離の客観的な測定法を検討した.特に、複数の個体が存在する状況下において, 特定数個体のみをトラッキングするための具体的な手法を開発した. またアミメアリのコロニーにおいて正負両方の密度依存的なパフォーマンス変化を観察した.これに関連して, アミメアリとオオシワアリを用いて高密度環境下における飼育実験を行なった. 他個体だけでなく, 巣内の糞の堆積場所との距離についても測定するための方法を検討した.並行してやはり複数種のアリについて,頭部をX線マイクロCTで撮影し,非破壊で頭部の中枢神経系,筋骨格系について3次元解析を行なった.また,オオハリアリやアギトアリ属などの脳の内部構造を3次元観察するために,セロトニンを抗体等を用いた抗体染色を行ない,共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察を行なった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は数種のアリで室内実験巣をカメラ撮影し各種自動計測ソフトを用いた分析によりいかに個体間距離を客観的に定量するかを検討した.社会的距離の密接に関わる巣内個体密度に関し,アミメアリのコロニー内で正と負の密度依存的な死亡率上昇と増殖率低下を観察した.並行してやはり複数種のアリについて,頭部をX線マイクロCTで撮影し,非破壊で頭部の中枢神経系,筋骨格系について3次元解析を行なった.また,オオハリアリやアギトアリ属などの脳の内部構造を3次元観察するために,セロトニンを抗体等を用いた抗体染色を行ない,共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察を行なった.コロニー内の個体間距離と糞の堆積物との関係を明らかにするために, 6種のアリを用いて巣内の糞の分布状況を調べた. また, トゲオオハリアリをモデルとして, 糞の堆積メカニズムを明らかにするために,計算機シミュレーションとバイオアッセイ進めている. また, 同様にトゲオオハリアリをモデルシステムとして, 巣内に糞を堆積させることの適応的意義を議論した論文を投稿中である. また, アミメアリとオオシワアリを用いた高密度環境下での飼育実験の結果を取りまとめ, 論文投稿を準備している段階である.
|
今後の研究の推進方策 |
スナップショット写真から個体間距離を定量する方法は概ね完成したが,実験巣にアリを収容してからの慣らし期間は種ごとに経験的に決定するより方法がなく,この点が多種データを収集する際のボトルネックになっている.アミメアリにおける密度依存的な短期パフォーマンスの変化はこれと関連する.本年度はこの問題を簡便に解消する方法も模索したい.マイクロCTと共焦点レーザー顕微鏡を用いたアリの脳の観察技術は着実に向上しており,今年度はソーシャルディスタンスを計測したアリ種に適用する予定である.アリの巣内の限られた部屋に糞が蓄積されそれを個体は避ける傾向にある事がこれまでの研究で示唆されたことから, 巣の構造とコロニー内の個体間距離も同時に調べる予定である. また, 糞はアリの巣部屋に特徴的な機能を与え, 個体間距離に強く影響すると考えられることから, 糞が持つ行動を制御する刺激についてトゲオオハリアリを用いて調べていく. アミメアリとオオシワアリ以外のアリ種においても高密度状況下の飼育実験を行うことで, アミメアリやオオシワアリで見られた現象の一般化を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
アリの脳形態の観察において手法開発が初年度の焦点となり,行動データ収集済みの標本の脳形態の観察が次年度に送られたためである.これらは次年度以降にまとめて実施する.
|