本研究においては、培養神経細胞を用いたできるだけ単純な神経回路を対象とし、「コネクトームから記憶を読み出す」ための実証実験を行うことを計画している。最小限の数の培養神経細胞を使ったネットワークに対し、人為的に入力を制御して「合成」記憶を作りだし、さらにコネクトーム解析することでこの合成記憶を読み出すことができるかどうか、検証を行う。 本年度は、海馬の培養細胞の系を用いて、記憶を書き込み、かつ読み取るためのツールの整備を行った。具体的には、光遺伝学を用いて、培養細胞神経細胞を刺激しつつ、カルシウム応答を計測する実験系の構築を行った。カルシウムイメージングについてはjGCaMP8mで十分神経活動の計測ができることを確認した。一方、光遺伝学ツールについては、jGCaMP8mの励起光では活性化されないものを用いる必要がある。各種検討し、Chrimsonおよびその変異体で良好な結果が得られることを確認した。実際に、海馬の培養神経細胞に対して、Chrimson変異体とjGCaMP8mを発現させ、光刺激とカルシウム計測を同時に行えることを確かめた。 更に、光学顕微鏡を用いてシナプス同定するためのツール開発を行った。プレおよびポストシナプスマーカーを用いて、シナプスを全自動同定できるパイプラインを構築した。神経突起の再構成についても効率の良い解析法を検討中である。 今後は、上記の実験系を用いて、様々な時空間パターンで光刺激を行い、培養細胞に記憶の書き込みが可能かどうかについて検討する予定である。
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