研究課題
3~7状態の交換状態にある、極性溶媒(DMSOおよびメタノール)中のシクロスポリンおよびその誘導体について、各種二次元NMRスペクトルの測定および解析を行った結果、ほぼ全ての状態について、観測されたNMRシグナルを帰属することに成功した。また、HA(i)-HA(i-1)およびNメチル基とその一残基前のNOEに基づいて、各状態における、Nメチル基に隣接するペプチド結合のcis-trans異性化状態を同定することに成功した。さらに、その中の3状態を交換する条件において、一つ一つの状態に対応するのNOEシグナルを帰属した上で、XPLOR-NIHにより立体構造計算を算出することに成功した。また、N-メチル基を13C標識したN-置換特殊ペプチドを利用することで、N-置換特殊ペプトイド単独および標的タンパク質添加状態におけるZZ-exchangeスペクトルを、高い感度およびシグナル分離度で観測できることを見出した。本手法と、多次元のパラメータを網羅的かつ効率的に探索することを可能とする交換モンテカルロ法を組み合わせることにより、上記シクロスポリン誘導体のcis-trans異性化の交換速度を算出することに成功した。さらに、がん遺伝子産物のMDM2を阻害するN-置換特殊ペプチド、およびその誘導体のNMR解析を進めた結果、3つのペプチド結合がcis-trans平衡状態にあること、およびall-transの割合がMDM2に対する親和性を規定することを明らかにして、その成果を投稿論文で発表した(Chemical Science(2004) in press)。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、N-置換特殊ペプチドを安定同位体標識し、多状態間の構造平衡を解析できるような、多次元・高分解能NMR解析法を開発した上で、開発した手法を応用して、複雑な構造平衡下にあるN-置換特殊ペプチドのNMRシグナルの帰属や状態間の交換速度計測を実現することを当初計画としていた。これと対応するように、本研究では、N-メチル基を13C標識したペプトイドを利用して、高い感度およびシグナル分離度のZZ-exchangeスペクトルの観測を観測して、多状態の構造平衡の量比および交換速度を観測することを可能とした。さらに、MDM2を阻害するN-置換特殊ペプチドがcis-trans平衡状態にあり、all-transの割合がMDM2に対する親和性を規定することを明らかにすることにも成功した(Chemical Science, in press)。したがって、当初の計画以上に進展していると考えた。
拘束ファイルの作成・構造計算・データ解析を半自動的に行うシステムを構築して、、多種・多数の特殊ペプチドのNMR構造を迅速に決定する技術を開発する。開発した手法を応用して、30種類以上の特殊ペプチドの立体構造決定を行う。また、膜透過活性の異なるシクロスポリン誘導体のNMR解析を行うことで、膜透過を規定する動的構造上の特徴を見出す。
次年度使用額が生じた理由:2023年度の途中に、申請者が2024年度から大阪大学薬学研究科に着任することが内定した。これに伴い、2023年度に東京大学で負担する液体ヘリウム代、液体窒素代、機器修理費用が当初予定より減少した一方、2024年度に大阪大学で負担するこれらの費用が当初予定より増大したため。使用計画:次年度使用額は、大阪大学薬学研究科のNMR装置の液体ヘリウム代、液体窒素代、機器修理費用に使用する。
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Chemical Science
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