研究実績の概要 |
質量分析イメージングは、対象分子を絞り込むことなく、標識なしで多くの生体分子の空間情報を同時に得ることができるため、空間オミクス研究に理想的である。しかしその適用はイオン化のしやすさから脂質や低分子に限られている。タンパク質の空間局在情報計測については、蛍光タグや抗体を用いたイメージングしかなく、標的を定めないプロテオーム規模でのイメージング法は未だ確立されていない。本研究では、ショットガンプロテオミクスの超高速化とマルチプレックス化により1組織切片から3000種以上のタンパク質を定量する新技術の開発に挑戦している。レーザーマイクロダイセクション(LMD)を用いて組織切片から400um四方の試料を縦横8x12程度、合計96スポットから自動で連続的に前処理用StageTip中に切り出し、トリプシン消化を行うシステムを確立した。また、1サイクル84秒のLC/MS/MS測定システム(DIAモード)を確立した。このシステムではイオン移動度分光器を内部にもつQ-TOF型質量分析装置timsTOFpro2を採用し、ヒト細胞株由来の100ngのタンパク質混合物から3000タンパク質以上の同定定量が可能であった。上記2つのシステムをマウス脳切片に適用したところ、約1000タンパク質についての局在情報を得ることに成功した。例えばオリゴデンドロサイトマーカーであるMag, Cnp, Mog, Plp1, Mbpなどは同じ局在分布を示し、CortexマーカーであるActn1, Stx1aも予想される局在分布パターンを示すなど、期待した結果が得られている。
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