研究課題/領域番号 |
23K18210
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 寧 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | HSV / レポーターウイルス |
研究実績の概要 |
宿主細胞に侵入したウイルスは、自己ゲノムより規則的な順序でウイルス遺伝子を発現することで、子孫ウイルスを産生する。単純ヘルペスウイルス(HSV)感染細胞では、前初期遺伝子群、初期遺伝子群、後期遺伝子群といったカスケード状の遺伝子発現により、感染サイクルが厳密に制御されると考えられている。そして、ウイルス学では、この段階的な感染現象を解明するため、感染細胞を経時的にサンプリングするという手法が古くから用いられてきた。しかし、ウイルス感染細胞のシングルセル解析により、ウイルス遺伝子発現は細胞集団において不均一であることが周知の事実となっている。従って、ウイルス遺伝子発現の高い不均一性を鑑みると、ウイルス感染細胞の経時的なサンプリングから得られた知見は、モザイク状の進行状況にある感染細胞の平均的な姿(値)でしかなく、感染現象の各段階における真の姿(値)を反映しているとは考え難い。そこで本研究は、従来の感染時間依存的な方法から脱却し、感染現象の駆動力ともいうべきウイルス遺伝子発現依存的にサンプルを分取することで、従来法では不均一性に埋没していた感染現象の真の動態を明らかにすることを目的としている。本研究で実施するウイルス遺伝子発現依存的な細胞分取法を確立する為に、HSVゲノム編集法により前初期蛋白質にTagRFP、後期蛋白質にVenusを付加した組換えレポーターウイルスを作製した。本レポーターウイルスをHeLa細胞にMOI5で感染させ、感染24時間後にVenusの蛍光強度に基づき細胞を6つの分画に分取し、各分画の後期蛋白質発現量を質量解析にて解析した結果、Venusの蛍光強度とほぼ全ての後期蛋白質の発現量の間には強い正の相関関係が認められた。従って、本レポーターウイルス感染細胞におけるVenusの蛍光強度はグローバルな後期蛋白質発現量の指標となる事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度までに、本研究で使用するレポーターウイルスを構築し、このレポーターウイルスの培養細胞における増殖力が野生株と同程度であることを確認した。また、このレポーターウイルス感染細胞におけるVenusの蛍光強度がグローバルな後期蛋白質の発現の指標となるという、本研究を遂行する上で基盤となる知見を得ることができた。従って、このレポーターウイルス感染細胞におけるVenusの蛍光強度に基づき細胞を分画し、包括的なウイルス学的解析を実施するという本研究の基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度で確立した感染細胞の分画システムを用いて、ウイルス遺伝子発現依存的に分取した各細胞集団を、(i)子孫ウイルス産生量の推移の解析、(ii)電子顕微鏡によるウイルス粒子成熟機構の解析、(iii)RNA-seqによるウイルス転写産物量の解析等の包括的な解析に順次供することで、感染細胞における後期遺伝子発現の進行に伴う子孫ウイルス産生量、ウイルス粒子成熟、ウイルス転写産物量の直接的な関係性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は本研究の遂行に必要な実験系の立ち上げを実施し、想定よりもスムーズに感染細胞の分画システムが確立された為、2023年度に購入を予定していた一般試薬、酵素類、プラスチック器具、牛胎児血清、等の試薬は研究室の在庫で賄うことができた。一方、2024年度は分画した細胞のオミクス解析等、高額な試薬を使用する実験を行う為、今年度未使用であった230万円を来年度予算として計上する。
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