研究課題/領域番号 |
23K18238
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田守 洋一郎 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10717325)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 多倍体細胞 / がん再発 / ゲノム倍数性 / 放射線治療 / ストレス耐性 |
研究実績の概要 |
腫瘍組織に存在する多倍体化細胞を標的とした治療戦略を考える上で、多倍体化した細胞の異常に高いストレス耐性の原因を正確に理解する必要がある。そこで、このストレス耐性(特に放射線耐性)の原因因子を同定するために、申請者の研究グループで独自に確立した複数の多倍体化細胞モデルを用いて、以下のような遺伝学スクリーニングを実施した。 ショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織の一部で、一時的にFzr/Cdh1を強制発現させることにより多倍体化細胞を誘導する実験モデルを複数検討し、翅原基上皮組織の後半分(posterior compartment)、もしくは同組織中央の円形エリア(wing pouch)に、効率的に多倍体化細胞を誘導できることを確認した。これらの多倍体化細胞を部分的に誘導した組織に、放射線照射(35 Gy)を行い、放射線に対する耐性を検討した結果、二倍体細胞では数多くのアポトーシスが検出される一方で、多倍体化が誘導された細胞ではほとんどアポトーシスが生じないことを確認した。wing pouchに多倍体細胞を誘導する実験モデルを用いて、4種の細胞群:①2倍体細胞(放射線照射なし)、②多倍体細胞(放射線照射なし)、③放射線照射後の2倍体細胞、④放射線照射後の多倍体細胞に対するRNAseqによる遺伝子発現解析を実施した。このトランスクリプトーム解析の結果、2倍体に比べて多倍体で発現が上昇(もしくは低下)している遺伝子群、放射線照射後の2倍体細胞群でのみ発現が上昇している遺伝子群を抽出することができた。 これらの実験モデルや基礎データについて、国立遺伝学研究所で遺伝研研究会として開催された「倍数性研究会」において発表した。さらに、これらの基礎データを含めた英文総説を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、ショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織を用いた上皮組織内多倍体化細胞モデルの有効性について確認し、計画していたRNAseqによるトランスクリプトーム解析を実施した。このトランスクリプトーム解析は、放射線照射が有る条件と無い条件、それぞれの組織から2倍体の細胞と多倍体の細胞をFACSによって単離し、各細胞群についてRNAseqを行なったものである。このような2倍体と多倍体の細胞それぞれについて行うRNAseqはこれまでにないものであり、今回試行錯誤の末に独自のプロトコルを確立できたことは今後の研究においても大きな意味を持つ。さらに、このトランスクリプトーム解析から複数の候補因子(多倍体化細胞が持つ放射線耐性に関わる遺伝子)が得られたことから、今後これらの候補因子からさらに有望な因子を同定するための二次スクリーニング、機能解析、シグナル経路解析へと発展させていくことができる。 また、腫瘍組織内の多倍体化細胞における候補因子の機能解析を実施するためのモデルとして、ショウジョウバエ翅原基に誘導した多倍体化細胞を含む腫瘍クローンを用いた遺伝学実験システムの構築を行なった。この遺伝学システムは、FLP-FRT組換えシステムと、Gal4-UAS、QF-QUASという2種類の強制発現系を組み合わせた非常に複雑なものであるが、これまでの実験において実際に生体上皮組織内で作動することを確認することができた。今後、上記のスクリーニングから同定される候補因子について、こちらの腫瘍モデルを用いて検討することも可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に実施したトランスクリプトーム(RNAseq)解析から、多倍体化細胞の放射線耐性に関わると予想される候補遺伝子を複数抽出することができた。今年度はこれらの候補遺伝子それぞれについて、遺伝学実験による二次スクリーニングを実施する。具体的には、RNAseqに用いたものと同様の組織(ショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織の一部に多倍体化細胞を誘導)において、多倍体化細胞において顕著な発現上昇が確認された候補遺伝子についてはその発現阻害(RNAiもしくは変異アリルの導入)を行い、逆に多倍体化細胞において顕著な発現降下が確認された候補遺伝子についてはその強制発現を行うことで、放射線照射の前後に見られる細胞の表現型の違い、特に放射線照射後に誘導される細胞死の表現型に顕著な差が現れるものを選定する。これらの二次スクリーニングにおいてさらに有望な因子として同定されたものに関しては、その因子が関わると予想されるシグナル経路の関与を解析することにより、分子プロセス全体の理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費として予定していた経費を、今年度は他の財源で賄うことができたため。次年度使用額は次年度に必要な旅費として使用する予定。
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