研究課題
薬物抵抗性脳疾患の制御には、神経活動の直接操作や遺伝子治療が有効である。これまで光遺伝学的神経活動操作で脳疾患モデル動物の症状を制御する研究が多く行われてきた。しかしながら光遺伝学的神経活動操作法には光ファイバーの脳実質への刺入が必要であるため、臨床応用にはその侵襲性が大きな課題であった。また近年脳疾患を含む遺伝病の治療法としてゲノム編集技術が着目されている。現在の治療戦略はウイルスベクターの全身投与あるいは脳実質への直接投与であるため、空間特異性の欠如あるいは侵襲性がそれぞれ課題である。そこで本研究では、経頭蓋集束超音波照射法と超音波細胞膜穿孔(ソノポレーション)法およびゲノム編集法の融合により、頭蓋外から非ウイルス性に脳部位特異的な遺伝子導入あるいはゲノム編集を可能にする経頭蓋遺伝子操作法の創出によって、これらの課題を克服することを目的とする。初年度は、まず経頭蓋集束ソノポレーション法に関して1-10 MHzの中心周波数を検討し、周波数依存的に遺伝子導入の空間的範囲を制御できることを見出した。次に複数の機械受容チャネル分子に関して、そのプラスミド分子の静脈経由および経頭蓋集束超音波照射を組み合わせることで、任意の脳部位に遺伝子導入が可能であることを見出した。さらに培養細胞において、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼ発現プラスミドを用いたゲノム編集技術を評価する実験を立ち上げた。
2: おおむね順調に進展している
本研究遂行に際して重要な技術的課題である「経頭蓋集束超音波照射法とソノポレーション法による脳部位特異的かつ非侵襲的な遺伝子導入」を既に達成できているため。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
初年度において、プラスミドベクターおよび微小気泡の静脈投与と経頭蓋集束超音波照射法とを組み合わせることで、脳部位特異的かつ非侵襲的な遺伝子導入法の創出に成功するとともに、ゲノム編集の実験系の立ち上げにも成功した。次年度は、当該成果を発展させ、経頭蓋集束ソノポレーション法による遺伝子導入の効率向上、細胞種特異的な遺伝子発現、および経頭蓋ゲノム編集法の研究開発を推進する。1. 経頭蓋集束ソノポレーション法による遺伝子導入の効率向上:超音波照射の物理的パラメーター(照射出力、デューティ比等)の検討や核酸封入脂質ナノ粒子を導入することで、経頭蓋集束ソノポレーション法による遺伝子導入の効率向上を検討する。2. 超音波遺伝学素子の経頭蓋的強制発現系の開発:代表的な超音波遺伝学素子である機械受容チャネルPiezoおよびTRP分子を大脳神経細胞に非侵襲的かつ細胞種特異的に導入する技術を開発する。プラスミドのソノポレーションで、アデノ随伴ウイルスベクターに搭載不可能な大サイズ遺伝子の導入が可能になる。神経細胞やグリア細胞に特異的なプロモーターの利用で細胞種特異性を実現する。3. 経頭蓋ゲノム編集法の開発:初年度に立ち上げた培養細胞系において、Cas9ヌクレアーゼ発現プラスミド、ガイドRNA、およびレポーター遺伝子発現鋳型DNAを標的脳部位の神経細胞に導入し、その効率を評価する。具体的には、まずβ-actinやCaMKIIαのゲノムを標的として標的配列を特異的に切断し、その効率を評価する。次に当該遺伝子に緑色蛍光タンパク質GFPを挿入し、内因性タンパク質を可視化する。
おおむね当初の計画通りに執行しており、繰越分は次年度以降の消耗品費としての執行を計画している。
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