研究課題/領域番号 |
23K18252
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安部 健太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70462653)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | バーチャル / コミュニケーション / 鳴禽類 |
研究実績の概要 |
ヒトは音素を複雑に組み合わせた音声言語である「ことば」を使用し、他個体と意思疎通を図る。このように複雑な音声を使用する動物種は少なく、「ことば」による意思疎通はヒト固有の能力とされることも多い。鳥類の一類、鳴禽類も「歌」や「さえずり」と呼ばれる音素を複雑に組み合わせたシーケンスを用いてコミュニケーションを取得し、状況に応じて多彩なシーケンスからなる「さえずり」を発するため、ヒトの「ことば」の発声や理解の一部の神経機構を解析する動物モデルとして使用できる。本研究では,鳥類が他個体に発し、他個体がそれを受容して自身の行動を変化させるコミュニケーション情報を科学的に検証可能な実験系においてその一部を解読することを目的とする。このために研究代表者らが確立した動物バーチャル(VR)技術やさえずり解読技術を駆使し、特定の疑似状況における音声パターンの変化を複数個体において収集・解析し、鳥類コミュニケーションシグナルに含まれ、他個体へ発信されるメッセージの詳細を明らかにする。これまでに鳴禽類は意図的にさえずり中の音素を変更できることをしめし(Kawaji et al., Nat. Commun. 2024)、本年度は鳴禽類のさえずり中の音声シーケンスを迅速に解析し、その内容をテキスト化する技術を確立した。また、動物VR技術を活用し、状況に応じたさえずりの発声内容をデータベース化することを進めている。また、マーカ付鳴禽類トラッキングシステムを新たに確立し、鳴禽類個体の視線を解析することで音声提示に対する注意を定量評価することを可能にした(Fujibayashi bioRxiv 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では鳴禽類の発する音声シーケンスを迅速に解析しその発声内容を評価する技術,発声に応答して迅速に人為的シグナルを提示する技術,人為シグナルを個体がどのように認識するのかを客観的に評価する技術が必要とされる。昨年度までに鳴禽類が発声した音声を録音し,迅速に発声内容を解析するプログラムを確立し、本年度頭に論文公開した(Kawaji et al., Nat. Commun. 2024)。本技術を活用し、鳴禽類個体に液晶モニタを介して様々な状況を提示した際の発声内容の変化を記録する実験を開始した。今後も引き続き継続的にデータ拡充し、それらの中からさえずりの「意味」情報の抽出を進める。また、上記の要領で記録された音声が実際に鳴禽類個体にどの用に評価され、行動変化を誘発するのかを詳細に解析することが求められる。このため、本年度はマーカ付鳴禽類トラッキングシステムを新たに確立し、鳴禽類個体の視線を解析することで音声提示に対する注意を定量評価することを可能にした(Fujibayashi bioRxiv 2023)。今後はこの行動解析系と脳内神経活動計測を組み合わせ、「さえずり」中に含まれる他個体の行動を変化させる情報の同定に解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、本年度実施したさえずり記録を持続し、データベースを構築するとともに言語AIを活用し多数のさえずりデータから情報をもつと思われる音声シーケンスを抽出する。この解析より、多数のさえずりデータから、情報をもつと思われる音声シーケンスを抽出し、それを鳴禽類個体に提示した際の行動を新規に開発した鳴禽類視線トラッキング技術(Fujibayashi bioRxiv 2023)を用いて定量的に解析する。また、候補となる音素シーケンスに対しては、確立した行動解析系と脳内神経活動計測を組み合わせ、「さえずり」中に含まれる他個体の行動を変化させる情報の同定に進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は鳴禽類視線トラッキング装置の作成を当初予定より早めたため、当初予定していたデータベース構築用実験および音声提示システムの構築を次年度に繰り下げたこのため、これに関連する物品の購入を次年度に使用する。
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