研究課題/領域番号 |
23K18285
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
後藤 義幸 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (10755523)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | α1, 2-フコース / 顎下腺上皮細胞 / IL-22 |
研究実績の概要 |
本年度は、腸管における病的炎症が口腔上皮細胞に与える影響について、上皮細胞が発現する糖鎖に着目し研究を行った。経口ゾンデを用いてデキストラン硫酸ナトリウムを投与することで、口腔上皮に影響を与えず腸炎を誘導する実験系を確立した。本実験系を用い、野生型および腸炎を誘導したマウスを準備し、腸炎誘導マウスにおける顎下腺上皮細胞の糖鎖(α1, 2-フコース)の発現を観察したところ、腸炎を誘導することで、顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコース発現が有意に亢進した。さらに、2型Fucosyltransferase(Fut2)欠損マウスを用いて、顎下腺上皮細胞におけるα1, 2-フコース発現を観察したところ、α1, 2-フコースが観察されなかったことから、腸炎誘導性のα1, 2-フコース発現はFut2依存的であることが示された。また、IL-22欠損マウスを用いた解析から、顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコース発現はIL-22依存的であることも示唆された。 腸炎の非侵襲的な検出法開発を目的として、野生型および腸炎誘導マウスにおいて唾液中のα1, 2-フコースを検出するEnzyme linked lectin assay (ELLA)法を独自に開発した。本手法を用い、野生型および腸炎誘導マウスの唾液中のα1, 2-フコース量を測定したところ、腸炎誘導マウスにおいてα1, 2-フコース量が有意に増加していた。このことから、唾液中のα1, 2-フコースは腸管における炎症検出のためのマーカーの一つになる可能性が示唆される。次年度は、腸炎が顎下腺上皮細胞にFut2およびα1, 2-フコースを誘導する機序について、IL-22産生細胞や腸管において誘導されるIL-22に着目して検討を進めるとともに、IL-22が唾液中におけるα1, 2-フコース産生を誘導する可能性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、腸管で誘導された炎症が口腔上皮細胞へ与える影響を検討するために、野生型マウスにおいて健常時とデキストラン硫酸ナトリウムを経口投与することで腸炎を誘導し、その腸炎による口腔上皮細胞の糖鎖修飾(α1, 2-フコース)の影響を解析した。その結果、顎下腺上皮細胞は腸炎誘導時において、腸管上皮細胞と同様にα1, 2-フコースが誘導された。一方、2型Fucosyltransferase(Fut2)欠損マウスでは、腸炎を誘導してもα1, 2-フコースの発現が見られなかったことから、顎下腺上皮細胞におけるα1, 2-フコースの誘導はFut2依存的であることが示された。興味深いことに、腸管上皮細胞においてFut2およびα1, 2-フコースの発現誘導を司るサイトカインであるIL-22を欠損したマウスでは、腸炎による顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコース誘導が惹起されなかったことから、IL-22が顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコース誘導に寄与していることが推測された。 さらに、唾液中に含まれるα1, 2-フコースを、申請者が独自に開発したEnzyme linked lectin assay (ELLA)を用いて測定する実験系を確立した。本実験系を用い、健常時ならびに腸炎誘導時において唾液中に含まれるα1, 2-フコース量を計測したところ、腸炎誘導時において有意に亢進することを見出した。またFut2欠損マウスでは、唾液中に観察されるα1, 2-フコース量が観察されないことから、腸炎が誘導されると、顎下腺上皮細胞においてFut2を介してα1, 2-フコースが誘導されることが考えられる。また、本研究成果から、唾液中に観察されるα1, 2-フコースは腸炎のマーカーとなり得る可能性が示唆される。以上により、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を基盤として、今後は腸管で誘導される炎症が、顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコース誘導に寄与する機序について研究を進める。昨年度までに、IL-22が顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコースを誘導するサイトカインであることを見出している。腸管で誘導されたIL-22が、顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコースを誘導する機序について、1. IL-22産生腸管免疫細胞が、顎下腺へ移動する可能性と、2. 腸管で産生されたIL-22が、顎下腺へ作用する可能性を検討する。まず、腸炎誘導時の腸管ならびに顎下腺における免疫細胞およびIL-22の発現をフローサイトメーターならびに定量的PCR法を用いて明らかにする。また、ELISA法を用い、腸炎誘導時における血中のIL-22濃度の定量解析を行う。腸管において誘導されたIL-22が顎下腺に作用する可能性を検証するために、抗IL-22中和抗体で腸炎誘導マウスを処理し、顎下腺上皮細胞のα1, 2-フコースの発現を観察する。一方で、腸炎誘導性IL-22産生細胞が顎下腺へ移動する可能性を検証するために、腸炎誘導時におけるIL-22産生細胞(例:Th17細胞、3型自然リンパ球)を分離、移入し、顎下腺に定着する可能性を検証する。さらに、腸管において誘導されたサイトカインが、顎下腺においてIL-22産生細胞を誘導する可能性を調べるために、IL-1bやIL-6、IL-23などIL-22誘導性サイトカインの腸管発現量や血中におけるサイトカイン産生量も検討する。 また昨年度までに、腸炎を誘導することで唾液中のα1, 2-フコース量が増加することを見出した。腸炎で誘導されたIL-22が唾液中のα1, 2-フコース量の増加に寄与する可能性を検証するために、IL-22欠損マウスに腸炎を誘導し、野生型マウスと比較して唾液中のα1, 2-フコースの産生量を観察する。
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