研究実績の概要 |
本研究では以前に実施した膵がんのシングル細胞解析(iScience, 25(8): 104659, 2022.)を土台とし、エクソソーム(EX;細胞外分泌小胞)内の「RNAパターン」による治療応答予測制御法を開発する。具体的には、1《計測技術》膵がん患者の「Ex内lncRNAのパターン」を精密に計測できる方法を確立する。2《臨床材料》膵がん患者の試料で、腫瘍本体の状態(がん活性化線維芽細胞[CAF]の種類、CD8+T細胞疲弊化)「炎症」との関連性を解明する。3《創薬展開》Ex内RNAを標的として、RNA蛋白(signal recognition particle [SRP]等)結合およびメチル化(m6A)を制御する新たな創薬のシーズを生み出す。以上の研究目的の下、本年度は膵がん患者由来のがん組織およびその周辺の正常組織の遺伝子発現とN6-メチルアデノシン(m6A)修飾RNAについてRNA-seqおよびMeRIP-seqによる解析を行った。その結果がん組織で高m6A修飾されたRNAを特定した。その中の一つであるTCEAL8 mRNAのm6A修飾は膵がんの新たなマーカーとなることが示唆された。またエクソソームとして伝達されるRN7SL1に結合するSRP9のバリアント1、2に関して、核内で結合するRNAをRIP-seqによって特定した。バリアント2では74種のlncRNAへの結合が検出されたがバリアント1では926種のlncRNAへの結合が検出された。これらのlncRNAはRN7SL1の脱被覆化に関係していることが示唆された。さらにRN7SL1のORFの1つをGFPに置換すると、RNAポリメラーゼⅢプロモーター下でGFPの発現が発がん状態の細胞で見られた。したがってRN7SL1の脱被覆化がRN7SL1の翻訳および発がんに関係していることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
がん関連m6A修飾、発がんにおけるRN7SL1、SRP9の機能についてlncRNAおよびエクソソーム内lncRNAとの関係性を明らかにしていく。そのために下記項目について検討を進める。1《計測技術》複数の方法の感度・特異度を比較検討するために、第一に、5′pppを修飾してライブラリーを構築する5′ppp-seq法(Cell, 120: 352-366, 2017.)、第二に、大阪大学発のトンネル電流シークエンス法で末端計測を繰り返して実施する方法(Sci Rep, 11(1):19304, 2021)、第三に、核酸を捕捉濃縮して質量分析する方法を実施する (Nat Commun, 10(1):3888, 2019)。 2《臨床材料》膵がん患者の手術切除材料と末梢血を用いて、Ex内lncRNAの脱被覆化を氷解し、腫瘍浸潤CD8+T細胞の疲弊化分子の発現(PD1, TIM3)、CAFの種類をRNA-seqで明らかにする(iCAF[inflammatory CAF], myCAF[myo fibroblast CAF])。iCAFではPD1抗体が、myCAFではTGFb阻害剤が、臨床的なシナジー効果を期待できる。 3《創薬展開》臨床的なシナジー効果を狙って、Ex内RNAを標的とするRNA蛋白結合およびm6Aを制御する新たな創薬のシーズのProof-of-Concept[POC]を確保する。 以上の計画を合わせて、Ex内lncRNAの計測と、画期的な創薬の両輪からなる「コンパニオン診断」の技術を開発研究する。
|