研究課題
遺伝子変異由来のネオアンチゲンに対するT細胞応答が抗腫瘍免疫の中心的役割を果たすが、これを網羅的・効率的に評価する方法は確立されていない。本研究では、腫瘍浸潤T細胞のシングルセル解析によりT細胞受容体(TCR)を同定し、ネオアンチゲンの免疫原性を評価する系を確立することを目的とした。現在までに、腎がん患者3例の腫瘍検体を用いて、以下の検討を実施した。(1) 腫瘍浸潤T細胞のシングルセルTCR解析とTCR-T細胞樹立:1) 腎がん組織から分離したCD3+T細胞からTCR解析用・遺伝子発現解析用のcDNAライブラリを作成したのち、シングルセルRNA-Seq解析を実施した。専用ソフトウェア(Cell Ranger、Loupe Browser)でTCR遺伝子配列の種類・頻度を解析した。 2) TCRを頻度の高い順に20種類選択し、TCR発現レトロウイルスベクターを作成した後、末梢血単核球(PBMC)に感染させTCR-T細胞を樹立した。(2) TCR-T細胞の腎がんオルガノイド細胞への反応性の評価: 1) 腎がん組織からディスパーゼ処理で分別した細胞塊をマトリゲル中に埋没させ培養・継代し、オルガノイド細胞株を樹立した。 2)オルガノイド細胞と同一患者に由来するTCR-T細胞を共培養したのち、培養上清中のLDH・サイトカインを測定しTCR-T細胞の反応性を評価した。腎がん患者3例の腫瘍検体を用いて評価したところ、20種類のTCRのうち7種(35%)、10種(50%)、11種(55%)がオルガノイド細胞反応性を示した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従い、腎がん患者3例の腫瘍検体を用いて、(1) 腫瘍浸潤T細胞のシングルセルTCR解析とTCR-T細胞樹立、(2) TCR-T細胞の腎がんオルガノイド細胞への反応性の評価、が実施できており、順調に進展していると考える。
引き続き、ペプチドミクス解析によるネオアンチゲン同定と免疫原性の評価を、以下の計画で実施する。1)ペプチドミクス解析によるネオアンチゲン同定;オルガノイド細胞のエクソーム解析・RNA-Seq解析によりがん特異的遺伝子変異(点突然変異、INDEL)を同定し、ペプチドミクス解析用データベースを構築する。オルガノイド細胞から遊離・回収したHLA class I 結合ペプチドの質量分析計解析(nanoLC-MS/MSシステム)とデータベース検索により、高いHLA結合性が予想されるネオアンチゲンペプチド配列を同定する。2) ネオアンチゲンの免疫原性評価;オルガノイド細胞に反応性を示したTCR-T細胞と同定したネオアンチゲン(合成ペプチド)をパルスした抗原提示細胞とを共培養したのち、サイトカイン測定・細胞形質解析により、各ネオアンチゲンの免疫原性と特異的TCRの遺伝子配列を決定する。3) ネオアンチゲン特異的T細胞の特性解明;ネオアンチゲン特異性が確認されたT細胞に特徴的な遺伝子発現シグネチャを解明し、機能解析をせずにネオアンチゲン・腫瘍特異的なT細胞サブセットを同定するためのクライテリアを確立する。以上により、ネオアンチゲンの免疫原性を網羅的・効率的に評価する系の確立を目指す。
遺伝子解析費(オルガノイド培養細胞のエクソーム解析・RNA-Seq解析を外注にて実施)を本年度に計上していたが、現在実施中であり次年度に使用する計画である。
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Comput Struct Biotechnol J
巻: 23 ページ: 859-869
10.1016/j.csbj.2024.01.023.