研究課題/領域番号 |
23K18426
|
研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
岩脇 隆夫 金沢医科大学, 総合医学研究所, 教授 (50342754)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / 生体イメージング / マウスモデル / 老化 / 疾患 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは細胞内共生した細菌を起源としており、内部に独自のDNA(mtDNA)を持つ真核生物に特徴的な細胞小器官である。ミトコンドリアは酸素呼吸の場として重要な役割を果たしている他、アポトーシス、脂質代謝、カルシウム代謝などにも関与している。このようにミトコンドリアは極めて重要かつ多彩な機能を有していることから、障害を受けると細胞内環境に悪影響を及ぼし、様々な病態を引き起こす。特にアルツハイマー病、パーキンソン病、癌、加齢性難聴など老化に伴い発症する疾患と関係が深い。それゆえにミトコンドリア異常を正確に捉えることが種々の疾患(特に老化関連疾患)の病態解明や治療薬開発に繋がると考えられ、ミトコンドリアの機能や異常を解析する研究の需要が以前にも増して急速に高まっている。しかしながら現在報告されているミトコンドリア異常を解析するための研究手法は用途が限られており、決して十分とは言えないのが現状である。この状況を踏まえてミトコンドリアの異常を捉える手段として「生体イメージング」に着目した。この技術には光レポーターを導入したトランスジェニックマウスがよく使われるが、その種類はまだ少なく、貢献できる分野も限られている。そこで本研究ではミトコンドリア異常の可視化に利用できる新たな生体イメージング用マウスの作製を目指している。本研究で提案するモデルマウスの開発が上手く進めば、ミトコンドリア異常と関わりのある老化関連疾患の病態解明や治療法開発に繋がる可能性があり、医学・薬学分野において広く貢献できると確信している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
性能の良いレポーターシステムを構築するには厳密に制御された分子メカニズムを利用する必要がある。そこで着目している「DELE1」の分子機能について追試を行い、報告通りに機能すると判明したので、ミトコンドリア異常の可視化にDELE1は極めて有用と考え、次の通りFRETを利用したレポーター遺伝子の構築に取り組んでいる。まずFRETシステムで利用するドナーとアクセプターを選定した。ドナーとアクセプターの組み合わせとしてCFPとvenusは広く使われている。その際にFRETの成立/解消は蛍光シグナルの波長変化により捉えられる。ただ生体イメージングでは波長変化(色)よりもシグナル強度(明暗)でFRETの成立/解消を捉えられる方が便利である。そこでFRETが成立したときに暗く、解消したときに明るくなるドナーとアクセプターの組み合わせを探した。これまでに3種類の発光ドナー(GLuc、RLuc、NLuc)に対して3種類のアクセプター(ShadowG、ShadowR、ShadowY)をテストした。結果として、「NLucとShadowR」の組み合わせが最適であることが分かったので、これをDELE1レポーターに採用することにした。次に採用FRETシステムへDELE1機能を導入する必要がある。特にFRETシステムがミトコンドリアへ輸送されるようにDELE1のミトコンドリア移行シグナル(MTS)をFRETシステムへ付加しなければならない。またOMA1によるプロセシングを受けるためにはOMA1認識領域/切断部位もFRETシステムへ付加しなければならない。さらにOMA1によるプロセシングがFRETの解消を引き起こす必要を考慮すると、この付加部分はドナーおよびアクセプターに挟まれるような位置関係になる。現在までに候補となるレポーター遺伝子を100種類近く得ているが、その性能評価は現在のところ途中段階にある。
|
今後の研究の推進方策 |
前述の通り、まだレポーター遺伝子の培養細胞レベルにおける評価は終っていない。何よりも早く最適なDELE1レポーター遺伝子を選定してトランスジェニックマウスの作製に着手しなければならない。ただ単にレポーターマウスを作製することに満足するのではなく、そのマウスを用いて何を視るのかが重要と考えている。ミトコンドリアの異常と老化現象が密接に関連すると考えられている。それゆえに本研究開発が最も貢献できそうな科学領域は老化だと考えている。老化は全ての生物で生じる生体変化であるが、意外にも研究が進んでいない。つまり老化の仕組みは未だ解明されていない。その理由は線虫のように寿命が短い生物は研究対象にしやすいが、哺乳動物のように年単位の寿命が長い生物は研究をやりにくいからである。先にも述べたが生体イメージングでは同一個体で経時的に解析を行うことができる。老化のような時間のかかる研究には対象生物を生かしたまま解析が進められる生体イメージングが適している。本研究ではミトコンドリアの異常と老化現象の関連性が「あるのか?」または「ないのか?」、あるとしたら「いつ頃からか?」「カラダのどの部分か?」。こういった問題にまずは答えを出したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大学院生への研究指導で一時的に大きくエフォートが変動したために実験が計画通りに進まなかったことが理由である。その大学院生も無事に学位を取得できたため、次年度は計画の遅れを取り戻せると考えており、その経費に充てる。
|