研究課題/領域番号 |
23K18429
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
東田 千尋 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (10272931)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | サルコペニア / Hemopexin / 骨格筋萎縮 / 記憶障害 |
研究実績の概要 |
1)正常マウス(12週齢、オス)の後肢にcast を14日間装着すると、後肢骨格筋の萎縮とともに記憶障害が誘発されることを見出した。この時、萎縮した骨格筋内でHemopexinが増加し分泌量も増すこと、血漿中のHemopexin量が増加することを確認した。またcast装着10日でも骨格筋萎縮に伴うHemopexin分泌と記憶障害が十分起きることも確認した。骨格筋内のHemopexinを翻訳阻害するために、vivo morpholino antisense oligoを合成し、10日間cast装着マウスの後肢の前脛骨筋および下腿三頭筋に2回(day 1、day 5)筋肉注射したところ、記憶障害誘発が抑制された。 2)Castによって萎縮した骨格筋から分泌されるextracellular vesicleの中にHemopexinが内包されているかを検討したところ、検出限界以下であることが示された。このことは骨格筋から分泌されるHemopexinはフリー体として血中に移行していることを示唆する。 3)正常マウス(12週齢、オス)の脳室内にリコンビナントHemopexinを持続的に14日間投与すると記憶障害が発症することを見出した。投与量はcast装着時に血漿内で増加するHemopexin量とタンパク質が血液脳関門を通過する一般的な比率から算出し、脳脊髄液中でその濃度に到達するようにした。 4)正常マウス(12週齢、オス)の後肢へのcast装着によって誘発される記憶障害を阻害する経口投与による薬物を探索する。候補薬物は既に3種類に絞っている(知財の理由で薬物名は現状では秘匿)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に上げた3つの項目の全てについて着手し、それぞれ結果を得ている。中でも、アルツハイマー病になる遺伝的素因がない正常の若齢マウスにおいても骨格筋萎縮によって認知障害が起きるという発見は、大きなインパクトのある知見である。さらには、それを阻止する方策を複数の視点(骨格筋のHemopexinを抑える、脳内のHemopexinを抑える、薬物の経口投与により抑える)で検討を進めている点、計画に沿って順調に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)正常マウス(12週齢、オス)の後肢へのcast装着によって誘発される記憶障害を脳内で阻害する方策を検討するために、cast装着期間中、Hemopexin中和抗体を脳室内に持続投与する。記憶能力を行動学的に評価するとともに、脳切片の免疫染色実験により、軸索密度、脳内炎症等を検討する。
2)正常マウス(12週齢、オス)の後肢へのcast装着によって誘発される記憶障害を阻害する経口投与による薬物を探索する。候補薬物は既に3種類に絞っている(知財の理由で薬物名は現状では秘匿)。薬物投与によるメカニズムを調べるために、薬物投与後の骨格筋と海馬をサンプルとして、mRNAレベルの変化をRNA-seqにより網羅的に調べる。薬物投与によるHemopexinへの影響、その他遺伝子の関与を調べ、骨格筋萎縮が誘発する記憶障害を抑止する分子メカニズムを詳細に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の残額の把握にミスがあり88円が残った。
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