研究課題/領域番号 |
23K18471
|
研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
二宮 嘉行 統計数理研究所, 統計基盤数理研究系, 教授 (50343330)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
キーワード | 因果推論 / 高次元統計学 / 情報量規準 / 選択的推論 / ランダム行列理論 |
研究実績の概要 |
二重降下現象のもとでの情報量規準を開発するというメインテーマについては,比較的容易にできる一般化/拡張および数値実験を行い,テーマ初の論文に向けて直前の段階まで進んだ.さらなる一般化/拡張を行うため,そして関連する最新のテクニックを組み込むため,分野第一人者との研究交流を進めたことも,2023 年度の成果である.具体的には,Katholieke Universiteit Leuven(ベルギー)に四週間滞在し,開発した情報量規準である Focused Information Criterion (FIC) の創始者である Prof. Gerda Claeskens と共同研究を進めた.FIC が開発されて 20 年が経っているため,当然ながら FIC は様々な魅力ある意義を付加する形で発展しており,それを本事業に組み込むためのアイディアや情報を得た.また,Northeast Normal University(中国)から統計応用のためのランダム行列理論の専門家である Prof. Jiang Hu を二週間招聘し,密にディスカッションを行った.本開発にはランダム行列理論が必要となるが,私は必ずしもその専門家ではないため,現時点版は人によっては受け入れにくい仮定に基づいたものとならざるを得なくなっている.しかし,Prof. Jiang Hu の知見を利用することにより,誰にでも受け入れられるような仮定に緩和できる見込みを得ることができた.選択後推論および因果推論も本事業のキーワードであるが,この両者の融合もテーマに Prof. Gerda Claeskens と四週間滞在の際に共同研究を進めている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023 年度は,事業の一年目ということもあって,【研究実績の概要】で述べたような研究交流に特に力を入れた.そこで詳細に書けなかったこととしては,Prof. Gerda Claeskens は選択後推論についても第一人者であり,FIC ではなく Akaike Information Criterion (AIC) でモデル選択したときの話であるが,選択後推論について共同研究を進めたことがある.FIC ではないので本事業に直接繋がるわけではないが,申請書にも書いたことであるが Prof. Gerda Claeskens のテクニックを習得することが本事業に不可欠であり,その共同研究は礎を築いていると言える.また,【研究実績の概要】で Prof. Jiang Hu を招聘したことに言及したが,実は招聘理由は別課題に関するディスカッションであった.Prof. Jiang Hu の知見による開発条件の緩和は,実現できれば想定外の大きな結果となる.これらのことより,事業遂行のための協力体制を強化し,計画の実現可能性を高めただけでなく,事業の意義を高める方向にも進展があったと言える.以上より,進捗状況については「おおむね順調に進展している」といってよいと考える.論文のレベルを少しでも上げるため,意義のある一般化/拡張や最新のテクニックの組み込みを優先し,論文化に遅れていることが,「当初の計画以上に進展している」としなかった理由である.
|
今後の研究の推進方策 |
以下の三つのテーマを実施する. テーマ(二重降下現象のもとでの情報量規準の開発):【研究実績の概要】で述べたような,意義のある一般化/拡張や最新のテクニックの組み込みを実現させ,既に申し込み済みであるが九月の統計関連学会連合大会で講演する.ランダム行列理論が関連するところでは Prof. Jiang Hu の知見が必要となるが,随時オンラインでディスカッションする予定である.一般化/拡張についてはここで一段落させ,統計関連学会連合大会以降は論文化に取り掛かる. テーマ(二重降下現象のもとでの選択後推論の開発):これを可能とするのは Prof. Gerda Claeskens が開発した選択後推論の方法にあるが,この方法を発展させることで博士学位をとる間際にある Prof. Gerda Claeskens の学生が十月から二カ月半私のもとに短期滞在する予定であり,研究体制は完全に整っている状態となる.選択後推論について,Prof. Gerda Claeskens は数理的に難解ではあるものの性能/有効性を高める手法を開発しており,一方で学生は実装において計算コストを大幅に減らすアルゴリズムを開発しており,これらを本事業に適用することを狙う. テーマ(因果推論の組み込み):Prof. Gerda Claeskens が開発した選択後推論の手法を因果推論の枠組みで発展させる試みは既に行っている最中であり,継続して完成させる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
【研究実績の概要】で述べたように,2023 年度は本事業遂行に繋がる分野第一人者の元に四週間滞在した.それは本経費で支出するに適したものであったが,他の経費でも適切な形で支出できることとなったため,次年度にさらなる研究交流を図ろうと考え,未使用が生じた.本事業では「二重降下現象に関する理論」や「選択後推論」などの専門性の高いテクニックが必要であり,一人ですべてを習得しようとすると研究の遅延が生じる.本テーマは現在世界的に競って開発が進んでおり,遅延は致命的になりかねず,研究交流が鍵となっている.少しでも多くの交流をするため,未使用を決めたというのが背景である.実際,2024 年度は海外研究者との交流を予定している(海外旅費:600千円,招聘旅費:450千円/人×2人).二人の招聘予定者からは既に内諾を貰っている.また,国内研究者との交流も複数回予定しているし(国内旅費:392千円),2023 年度に開発した手法の有用性を確認するため,最新のデスクトップPCを購入する予定である(450千円/台×2台).
|