医薬品をはじめとした化学物質の生殖発生毒性試験における評価の主体は、母体よりも胎児を重点とする傾向にある。一方で、妊娠の成立・維持、胎児の健やかな成長には、胎盤の正常な維持と発達が不可欠である。そのため、化学物質の生殖発生毒性評価に際しては、胎盤への毒性の理解が重要である。そこで本研究では、胎児への毒性が報告されている医薬品をモデルに、それら化学物質が胎盤構造・機能形成におよぼす影響とその発現機序を明らかとすることを目的とし、得られた知見に基づき、既存法の無い「胎盤形成・機能性試験法」の提案を目指す。 胎盤は、絨毛細胞が合胞体化することで、母体-胎児間での栄養素の交換やホルモンの産生など、妊娠維持に必須な機能を獲得する。そこで、ヒト胎盤絨毛細胞を用いた胎盤合胞体化の評価系を用い、各種モデル医薬品が、合胞体化の過程における細胞融合におよぼす影響を評価した。本年度は、先天性異常の誘発が報告されているバルプロ酸と5-FUをモデル化学物質として選択した。解析の結果、バルプロ酸処置群において、合胞体化割合の低下と合胞体化の進行に伴う各遺伝子の発現増加が抑制され、バルプロ酸が合胞体化を阻害することが示唆された。一方で、5-FU処置群では合胞体化割合に有意な変動は認められなかったものの、合胞体化の進行に伴う各遺伝子の発現増加が亢進し、胎盤の機能不全を引き起こしている可能性が示された。現在、他の医薬品を用い、合胞体化への影響を評価すると共に、発現変動分子を網羅的に解析し、胎児毒性を示す化学物質曝露による胎盤機能異常の分子機序解明を進めている。
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