研究課題/領域番号 |
23K18530
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内海 俊介 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (10642019)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 標本 / 進化的救助 / ミュゼオミクス / 徘徊性昆虫 |
研究実績の概要 |
気候変動に伴う温暖化の進行による生物の絶滅リスク上昇が懸念されている。温暖化に対する生物応答として、分布シフトとフェノロジー変化の二つがもっぱら注目されてきたが、近年、第三の応答として体サイズ変化(特に、体サイズ減少)が指摘されている。体サイズは基盤的な機能形質であり、その応答パターンや変化のメカニズムを明らかにしすることは、生物個体群の存続可能性と絶滅リスクの予測に対して重大な意義を持つ。しかし、温暖化進行下の野外における体サイズ変化を調べた先行研究では、群集レベルあるいは種間レベルの応答に焦点をあてることが多く、種内変異が考慮されておらず、体サイズ変化が迅速な進化による応答なのか、あるいは可塑的応答なのかといった根本的メカニズムの解明に繋がる知見は乏しい。また、これまで体サイズ変化は、気温上昇下での一貫した線形的変化が仮定されてきた。しかし、可塑的応答と進化的応答の交絡、そして、急激な気候変動による複合的な環境因子の交絡によって、体サイズの時間変化は非線形的である可能性がある。以上を踏まえると、気候変動による生物適応動態のメカニズムの解明と適切な将来予測を目指すためには、まずは種内レベルでの形質応答パターンの時空間動態を明らかにする必要がある。そこで今年度は、日本各地で過去20年にわたって標本が収集されてきたクロツヤヒラタゴミムシに着目し、体サイズの時空間動態を解明することを目的とした。特に、1)線形的な体サイズ減少傾向はみられるのか、2)局所集団間で体サイズ動態は異なるのか、を検討した。北海道から和歌山にかけた5地点の解析結果より、温度上昇に対して非線形的な体サイズ変化が示された。また、標本からのDNA抽出を行うとともに、生体からのDNA抽出を行い、HiSeqシーケンスとNanoporeシーケンスを実施して、リファレンス配列を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標本のデジタイズと体長計測がほぼ完了し、20年間の体サイズ動態とそれを駆動する気候要因との関係が明らかになった。また、標本からのDNA抽出とターゲットエンリッチメント解析を実施できた。そして、リファレンス配列の取得もできた。同時に、生体をもちいた飼育実験も実施し、RNA-seqにかかる用意も進んでいる。それらのことから順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
温度操作下での飼育実験を継続し、幼虫と成虫のRNA-seqを実施する。さらに、RNA-seqで顕著な違いがみられたターゲット遺伝子群について焦点をあて、標本DNAにおける変異を探索していく。また、すでに実施済みの標本DNAにおけるミトコンドリアDNAでのエンリッチメント実験についてのデータ解析を進展させる。
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