研究課題/領域番号 |
23K18531
|
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
久保田 彰 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (60432811)
|
研究分担者 |
生城 真一 富山県立大学, 工学部, 教授 (50244679)
田上 瑠美 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (60767226)
武田 一貴 北里大学, 獣医学部, 講師 (00896350)
川合 佑典 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (10709546)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
キーワード | 希少鳥類 / タンチョウ / シトクロムP450 / CYP / 薬物代謝 / 薬物相互作用 / アゾール系抗真菌薬 / 環境汚染物質 |
研究実績の概要 |
令和5年度は主に以下の成果を得た。 1)過去に報告したタンチョウ肝臓に発現するCYP の網羅解析の結果を踏まえ、肝発現量の高かったCYP3A37・CYP2AC1に着目し、出芽酵母発現系を用いて異種発現させた。CYP3A37・CYP2AC1の酵母発現ミクロソームはそれぞれ想定される標準基質の代謝能を有していたものの、P450-Gloアッセイにおける関連CYP基質の代謝活性はきわめて低かった。 2)タンチョウ肝ミクロソームを用いて各種P450-Gloアッセイを行ったところ、CYP1A5 mRNA発現量とP450-Glo CYP1A2の代謝活性の間にのみ有意な正の相関関係がみられた。そこで出芽酵母発現系を用いてCYP1A4・CYP1A5を異種発現させ、エトキシレゾルフィン・メトキシレゾルフィンを基質とした酵素活性(EROD・MROD活性)を測定し、酵素学的パラメータを算出した。分子種間の比較では、EROD活性のVmax/Kmに差はみられなかったものの、MROD活性のVmax/KmはCYP1A5で有意に高い値を示した。 3)タンチョウCYP1A4・CYP1A5の酵母発現ミクロソームを用いて各種薬剤や農薬によるEROD活性の阻害試験を行ったところ、アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール・ケトコナゾール)はCYP1A4に対して相対的に強い阻害能を示したのに対し(IC50はそれぞれ4.0・0.68 uM)、有機リン系殺虫剤(クロルピリホス・フェンチオン・ジクロルボス)・カーバメート系殺虫剤(カルバリル)はCYP1A5に対して相対的に強い阻害能を示した(IC50はそれぞれ、有機リン:1.4・2.1・0.82 uM、カルバリル:49 uM)。 4)ヤンバルクイナの新鮮肝を入手しRNA-seq解析を実施した。取得したデータの解析を進めているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンチョウで4つの肝発現CYP分子種の酵母発現に成功し基礎的な酵素活性のデータを取得した。さらにCYP1A4・CYP1A5については典型基質を用いて酵素学的パラメータを算出するとともに、アゾール系抗真菌薬や環境汚染物質による活性阻害の特性も明らかにした。またヤンバルクイナについてRNA-seq解析を実施しデータを入手しているが、発現CYPの解析等は現在進行中である。以上より、タンチョウについてインビトロ手法により薬物代謝・薬物相互作用の解析が進んでいること、ヤンバルクイナについても新鮮肝を用いたRNA-seq解析が進行中であることから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きタンチョウCYP1A4・CYP1A5の酵母発現ミクロソームおよび肝ミクロソームを用いた薬物代謝・薬物相互作用の解析を行う。薬物代謝については、臨床上重要な薬物(アゾール系抗真菌薬など)の代謝試験を実施し、機器分析により代謝物の定性・定量を行う。薬物相互作用については、EROD活性を指標とした阻害試験に加え、臨床での組み合わせを考慮した薬物相互作用(アゾール系抗真菌薬+フルオロキノロン系抗生物質による代謝への影響など)を評価する。さらにタンチョウCYP1A4・CYP1A5について、インシリコ解析によりCYP-薬物間の相互作用をシミュレーションすることで、薬物代謝・薬物相互作用の統合的な評価を試みる。また同様のインビトロ・インシリコ試験についてヤンバルクイナを対象として進める予定である。得られた成果を国内学会で発表するとともに、国際学術誌へ投稿する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ヤンバルクイナについて、主要な肝発現CYP分子種の異種発現のための人工遺伝子合成を年度内に実施する予定であったが、RNA-seq解析に時間を要しているため未実施となったこと、ならびに当初計画していた学会参加を見送ったこと、技術補佐員の人件費が当初計画より下回ったことにより当該助成金が生じた。これらはいずれも翌年度において使用する予定である。
|