研究課題/領域番号 |
23K18566
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
武田 真莉子 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (70257096)
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研究分担者 |
森下 理咲子 神戸学院大学, 薬学部, 研究員 (70899963)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | バイオ医薬 / ウルトラファインバブル / 経口投与 / インスリン / ワクチン / 経口製剤化 |
研究実績の概要 |
近年我々は、日本発祥のイノベーション素材であるウルトラファインバブル(UFB) 水 がインスリンの消化管内安定性を高めることによりその経口吸収性を著明に改善するという新たな発見をした。本研究はUFBを活用して、日本発の革新的な“飲むワクチン”あるいは“飲むインスリン“といった経口製剤を創製し、社会実装することを究極の目的としている。 初年度は【検討1】UFBの物性評価と品質最適化として、DLSの昇温機能を利用してさまざまな温度帯で粒子径を測定した。結果、20-50℃では変化がないものの、60℃以上になると粒子径が大きくなることが確認され、昇温に比例して体積が大きくなる“気体”であると示唆された。また、バブル濃度については減圧蒸留法を用いて濃縮することにより任意に調節することができCryo-TEMでの撮影にも成功した。これらは平均粒子径100-120nmとなっており、ナノトラッキング法による粒子サイズとほぼ一致した。模擬消化液(空腹時胃液、空腹時腸液、飽食時腸液)を用い、DLSにて粒子径の測定を行った。模擬胃液・腸液の消化液に関しても、999:1の割合で混合した場合は、バブル粒子径に影響は見られず、UFB濃度が高い環境においては、これらの消化液が物性に影響する可能性は低いことが明らかになった。 【検討2】として、各種UFBのインスリン消化管吸収性を評価した結果、バブル数が多い投与液で強い吸収促進作用が認められた。その機構として、消化酵素(ペプシン、トリプシン)阻害効果を検討した結果、UFBはいずれの酵素に対しても阻害効果を示すことを明らかにした。さらに経口製剤化されたユニオーブ化インスリンと併用し経口投与を行った結果、明らかな血糖低下作用を示したことから、UFB水は、経口インスリン製剤の吸収促進補助剤として安全に臨床活用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のこれまでの検討結果により、UFBの安全性並びに基礎的な物性が明らかとなり、また、UFBを濃縮する方法を確立できたことから、バブル濃度と生物活性との関係性を示すことも可能となった。これらの成果により、DDSに用いることのできるイノベーション素材としてUFBの重要性を明らかにすることが可能となったと言える。特に、UFBは、胃内及び小腸の消化酵素の作用を阻害することで、インスリンに代表されるペプチド医薬の経口吸収を増大させたことから、バイオ医薬の経口製剤化の可能性を拓くことが出来たと考えられる。UFBによる生体に安全な吸収促進技術は、さまざまなバイオ医薬に応用ができると考えられ、“飲むワクチン”への発展が大変期待される。以上の理由により、概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の成果を踏まえて、さらに以下の3つの点について、詳細に検討する。 【検討1】UFBの物性評価と品質最適化 生体適用を想定し、UFBの物性評価および生体成分との相互作用(模擬消化液、塩および界面活性物質(特に胆汁酸))がUFBの物性・安定性に与える影響をCD、UV、熱分析などで詳細に検討する。 【検討2】UFBによるワクチン等バイオ薬物の消化管吸収促進効果の応用性検証:インスリンについては、消化酵素からの分解を抑制することで経口吸収性を増大させることを明らかに出来たことから、更なる応用性を明らかにするために、オキシトシンなど対象のバイオ医薬を増やして検討する。また同時に、モデルワクチン(OVA(MW 43 kDa)、インフルエンザHA抗原(63 kDa))等を対象に、経口吸収性及びワクチンとしての性能評価についてin vitro及びin vivoで詳細に検討する。 【検討3】UFBによる吸収促進補助剤としての有用性の評価:①消化管に存在するGPR120等の各種受容体およびグルコーストランスポーター等のトランスポーターへの作用、②非攪拌水層への影響(粘液可溶化効果)、③消化管粘膜構造(Tight junction)への影響を詳細に検討する。 このような検討を通して、UFBを活用してバイオ医薬の経口製剤化が果たせた暁には、日本発の革新的な“飲むワクチン”、“飲むインスリン“として、世界の医療分野へ多大なる貢献をすることになると期待する。また、日本発祥であるファインバブル産業をも大きく発展させることが可能になると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
肝臓等の臓器中の水素濃度の測定にコストがかかるため、その実験費用を計上していたが、用いたニードル水素センサーの精度が低かったため、予定より早く評価を切り上げた。そのため、予定よりも残額が残った。次年度は、多数の実験を計画しているため、次年度使用額と合わせて実験を進める予定である。
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