• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

モデル細胞を用いたヒト初期発生における正常発生維持機構解明のための基盤づくり

研究課題

研究課題/領域番号 23K18574
研究機関京都大学

研究代表者

川瀬 栄八郎  京都大学, 医生物学研究所, 准教授 (70402790)

研究期間 (年度) 2023-06-30 – 2025-03-31
キーワード幹細胞 / 初期胚 / ヒト細胞 / 不妊治療 / モデル細胞
研究実績の概要

ヒト初期胚の多くは正常な2倍体細胞と異数性染色体細胞からなるモザイク状態であることがわかってきている。このようなモザイク胚では初期発生で死亡を引き起こすものもあり、胚移植の成功率が低いことの大きな要因の一つと考えられている。一方で、モザイク率が高くても健康な生児にまで達したという報告もある。本研究ではこのようなモザイク状態の胚をどのように解析していくかを、初期胚細胞であるヒトES細胞を用いて基盤技術を開発していくことを目指している。
細胞集団のモザイク率を解析する手段としてギムザ染色法を用いた解析が一般的には用いられているが、ギムザ染色では少数の細胞からなる初期胚では適用が難しいこと、また対象が分裂中期の細胞に限定されるという問題がある。近年はNGSを用いた検査が主流となってきている。しかしながら、NGSでは検査コストの問題に加え、サンプルをマスとして解析を行うため、少ない割合で含まれる細胞集団に関して検出しにくいという問題点がある。
本年度ではまず細胞集団がどの程度モザイク状態であるかを確認する方法を開発し、さらにはモザイク状態である細胞をクローニングし、さらに増殖させることで均一な細胞集団を作成するための技術開発を行った。
検討の結果、どの程度モザイク性が生じているかを確認する方法としては各染色体の特有プローブを用いたFISHを行う方法が適していることを見出した。
また、細胞のクローニングに関しては、従来の限界希釈法を改良した。具体的には播種した細胞がウエル中のどの位置にいるか、単一細胞か否か、また細胞の形態的な判断に加え核を蛍光色素で染色し、経時的に写真撮影を行うことで、より確実性の高いクローン細胞株を見出すことができるようになった。以上の結果、異数性染色体を有する細胞をクローニングし、NGSなどの解析を行うための基盤をつくることに成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究業績の概要に述べたように本年度は以下の2点に絞り研究を進めた。
(1)モザイク率の評価方法の検討:細胞レベルでの解析としてはGバンド解析、マルチカラーFISHによる解析が一般的に用いられているが、これは分裂期の細胞だけを対象としており、細胞数が少ないヒト初期胚では適用が難しい。私達は、いろいろ検討を行った結果、各染色体特有のセントロメアDNAをプローブとしたFISHが適していた。この方法では間期の細胞でも検出できること、核の中に蛍光のドット数を測定することで容易に検出が可能である。ヒトES細胞では特定の染色体が異数性になることが多いと言われているが、その点についても確認することができた。
(2)クローニング技術の開発:細胞のクローニング方法としては1個のウエルに1個以下に細胞を播種していく限界希釈法とFACSなどによるソーティング方法が一般的に用いられている。従来の限界希釈法では、例えば各ウエルに1/3個の細胞を播種したとしても、増殖してきた細胞が本当に1細胞由来であるかどうかの根拠は弱い。FACSなどによるソーティングではレーザー照射により細胞がダメージを受けバイアスが生じる可能性が指摘されている。そこで私達は以下のような限界希釈法の改良を行った。細胞をプレーティング後、接着した細胞が単一かどうかを、ウエル全体を経時的に写真撮影し、コロニーが成長してきたウエルからそれが単一かどうかを、取得写真データを遡って確認していく手法を用いた。さらに単一細胞か否かについては細胞の形態的な判断に加え、細胞の核を蛍光色素で検出した。インキュベータ内に観察機器を設置したために、機器の動作から生じる発熱でインキュベータ内の温度などが不安定となる問題点があった。観察時には観察機器に定期的に停止モードを入れ、発熱などの問題が生じないように工夫をした。

今後の研究の推進方策

本研究課題では初期胚細胞であるヒトES細胞をモデルとして、ヒト初期胚細胞が有する自己修正機構の理解するための基盤構築を目指している。
R5年度では異数性染色体を有する細胞の検出方法とクローニング培養による拡大方法の構築を行った。
R6年度は、この方法を用い異数性染色体を有する細胞の株化を行う。次に異数性染色体を有する細胞と正常染色体株とRNA-seqなどの遺伝子発現の比較を行うとともに、細胞生物学的にも両者に違いはあるのかを検討を行う。細胞生物学的解析としては、培養基質への接着力、細胞株の細胞周期、細胞の増殖速度、分化指向性などの項目を予定している。さらに細胞株にGFPやRFPなどでマーカーを導入し、両者を共培養することで、両細胞間での競合が生じるかどうかに検討も行う。また化合物を用いて、ES細胞の染色体異数性を誘発し、クローニングして多様な異数性染色体を有する細胞株の作成にも着手したい。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Development of substrates for the culture of human pluripotent stem cells2023

    • 著者名/発表者名
      Kawase Eihachiro、Nakatsuji Norio
    • 雑誌名

      Biomaterials Science

      巻: 11 ページ: 2974~2987

    • DOI

      10.1039/D2BM01473D

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 京都大学におけるヒトES細胞株の樹立研究の展開2024

    • 著者名/発表者名
      高田圭、山崎-藤垣 静香、藤井 麻衣、古田 昌代、川瀬 栄八郎
    • 学会等名
      第23回日本再生医療学会総会
  • [学会発表] EFFICIENT DERIVATION AND BANKING OF CLINICAL-GRADE HUMAN EMBRYONIC STEM CELL LINES IN ACCORDANCE WITH JAPANESE REGULATIONS.2023

    • 著者名/発表者名
      Eihachiro Kawase, Kei Takada, Ryoko Nakatani, Emiko Moribe, Shizuka Yamazaki-Fujigaki, Mai Fujii, Masayo Furuta, Hirofumi Suemori.
    • 学会等名
      ISSCR
    • 国際学会
  • [備考] 2023年5月1日 英国Biomaterials Science誌に発表されました

    • URL

      https://scad-kyoto.com/topics/

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi