研究課題/領域番号 |
23K18640
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立国際美術館 |
研究代表者 |
児玉 茜 独立行政法人国立美術館国立国際美術館, その他部局等, 特定研究員 (90984625)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 収集アーカイブズ / 現代美術 / 画廊旧蔵資料 / アーカイブ |
研究実績の概要 |
現代美術の作家自身の背景としての個人アーカイブズや、同時代的に世情を反映している画廊の資料を研究資源化しようとする動きが活発になっていることに関連して、本研究では、実際の現代美術の収集アーカイブズ構築と公開過程において、資料群の受け入れから整理、公開までのプロセスで発生する様々な課題や考慮すべき項目を検討している。またそれにより、現代美術関連アーカイブズ構築の際の独自の課題や考慮項目をも含めた問題点を明確にし、その方法論を明確にすることを目的としている。実際には、国立国際美術館が保持している京都のギャラリー・ココ(現在は閉廊)の旧蔵資料群を、アーカイブズとして公開に向けて整理する過程で得られる様々な知見をもとに、資料群の受け入れ前の検討から受け入れ作業、その整理作業からアーカイブズ構築と公開の準備などの一連の一般的な作業フローの検討を行っている。本年度は、自館(国立国際美術館)の作品や資料を含めた検索システム「NMAOサーチ」の公開準備の際に問題となった点を検討しなおす等して、今回の資料の整理の基本方針を策定、ギャラリー・ココ旧蔵資料群(展覧会関連資料/作家資料/作品資料など)の整理・分類を進めて、その概要目録を作成した。これと並行して、収集アーカイブズの公開を行っている複数の機関との情報交換を行い、それらを参考にするとともに、国立国際美術館独自の受け入れプロセスのフォーマットの作成を行った。この過程で新たにギャラリーが独自に作成していたデジタルデータの存在が明らかになり、これらも含めて資源を有効活用していくための方法の検討にも着手している。その結果、比較的まとまった量の未整理の資料を、将来の研究資源として有効利用できる形でアーカイブズ化する際に検討しておくべき項目や問題点、また実際の作業量や方法論について、具体化されてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の24年度実施予定事項4項目のうち3項目が完了し、残り1項目も作業を進めたことによってさらに検討するべき問題が明らかになった為、概ね初年度の目標は達した。 具体的には、まず収集・保存されている資料群の概要目録を作成した。主なものは、展覧会関連資料/作家資料/作品資料であり、これらをさらに細目に分類・整理して目録化した。また上記の作業と並行して、収集アーカイブズ受入時に必要なプロセスの検証や、保存・公開・活用に関する調査のため、収集アーカイブズを先行して公開しているような東京国立近代美術館、国立新美術館、国立民族学博物館(特に梅棹アーカイブ室)、韓国の国立現代美術館、シンガポールのナショナルギャラリーなど、いくつかの機関に赴いた。それぞれの館の情報を収集し、それらも考慮に入れながら国立国際美術館における収集アーカイブズの受け入れプロセスについて自館のスタッフと協議を繰り返し、受け入れ時に記録すべき情報や整理の仕方について検討した。今回の資料群の最も初期の受け入れにかかわった研究員に当時の状況の聞き取りを行い、今後、新たに収集アーカイブズ寄贈の打診があった際の一般的な受け入れについて、事前調査のフォーマット等、作業フローを策定した。さらに長期保存用の資料整理と詳細目録の作成については、種別分けと保存容器への格納を進め、管理用の採番の作業を進めた。一方で資料寄贈元との連絡を取る中で、閉廊した画廊自身が独自に作成していた保存用デジタルデータが存在することが判明し、これを新たに受け入れることになったため、これらのデジタルデータをアーカイブに整合的に取り組むために、資料の採番について両者を照合して振り直しをする必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
2004年6月末に閉廊したギャラリー・ココ関連の周辺資料を対象に、研究計画に従って本年度進めた資料群の整理・分類の進展と並行して、アーカイブズ公開に向けての許諾を得るために著作権者を探して連絡を取り合った。その結果、すでに受け取っていた紙媒体やフィルムなどの資料以外に、多数のデジタル化された資料が著作権者側に残っていることが判明した。これらは、画廊スタッフらによって将来の研究資料としての利用を意図して独自に作成され、保有されていたものであったが、今回、これらの資料の国立国際美術館アーカイブズへの組み込みに許諾を得ることができた。資料の内容を検討した結果、すでに受け入れている資料群との対応関係などを照合することで両資料の価値を相補的に高めることが重要であると分かった。21世紀という時代背景を考えると、今後の現代美術アーカイブズ構築作業では、デジタルデータとして残された一次資料と実体としての紙媒体やフィルムなどの資料をいかに整合性のある形でアーカイブズとして整理していくかが重要な問題になっていくと思われる。また実際に内容確認の作業に取り掛かってみると、デジタルデータは作成された年代が異なる場合にはその電子的フォーマットが異なり、復元や利用に関して様々な制限があることも明らかになった。このように、初年度の研究計画に沿った研究の進展とともに、当初の研究計画では意識されていなかった一次資料としてのデジタルデータの扱いの方法論を明確にすることの重要性が明らかになったので、今後の研究の方向性は、当初研究計画で予定されていた二つ目の画廊ギャラリー白の資料整理へ進むことを保留・変更し、ギャラリー・ココの資料に関してさらに進んでデジタルデータの扱いを検討し、それらを散逸させることなく、高い利用価値を保証する形でアーカイブズ構築に取り組むこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(残額)が0より大きい理由として、交付(2023年秋)から2024年3月末までの短期間に東京国立近代美術館、国立新美術館、国立民族学博物館への調査等の出張(旅費)と資料群の格納用のアーカイバルボックス等物品購入以外の準備が整わなかったことが挙げられる。2024年度は、昨年度の残額と合わせてVHSなどのフィルム類のデジタル化を進めること、さらに研究計画における細部の作業、具体的には収集アーカイブズの詳細な目録作成や、リフィル・アーカイバルボックスへの格納と採番、システムへの登録準備等について依頼した際の謝金にあてる予定である。デジタル化については、所属機関の規定でフィルム類を扱える研究者に制限があることも迅速に進められなかった理由である。また新たに入手した1990年代前後のデジタルデータについては、所属機関の設備では展開できない拡張子などが含まれることがわかっており、内容の確認に専門的な技術が必要になった場合の支払いに使用予定である。
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