• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

日本戦後ミステリにおける精神疾患表象の史的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23K18653
研究機関鹿児島大学

研究代表者

鈴木 優作  鹿児島大学, 法文学部, 特任助教 (50975802)

研究期間 (年度) 2023-08-31 – 2025-03-31
キーワード探偵小説 / 推理小説 / ミステリ / 奇書 / 松本清張 / 江戸川乱歩 / 病跡学 / 精神医学
研究実績の概要

令和5年度は、研究課題である精神医学言説を視座とした戦後ミステリの作品分析を行った。
「ミステリにおける奇書の再考 内在する〈狂い〉について」(『ユリイカ』2023年7月)では、ミステリ文学における「日本三大奇書」における〈狂い〉の様相を析出し、「第四の奇書」とされる竹本健治「匣の中の失楽」(1978年)における「三大奇書」の〈狂い〉の継承を論じた。また、「三大奇書」が特異な位置づけをされた1970年代が〈狂い〉に価値を見いだす病跡学の時代であったことを指摘した。
また、戦後昭和期に社会派推理小説ブームを巻き起こした松本清張の作品について、同時代の精神医学言説を視座に分析を行った。論文「リアリズムとしての精神医療――松本清張「地の指」論――」(『社会文学』2023年8月)では、「地の指」(1962年)を対象に、精神病院建設ブームという時代背景を参照しつつ、従前の探偵小説が特殊な世界としてイメージ消費してきた精神医療界のステレオタイプを払拭し、「常人」にも異常性が孕まれる可能性を示唆する、読み手のまなざしを啓発する作品と位置づけた。また、「欲望される〈新人〉〈女流〉〈天才〉――松本清張「天才画の女」論――」(『近代文学論集』2024年3月)では、「天才画の女」(1978年)を対象に、本作が70年代の画壇状況や当時流行の病跡学を取り入れ、謎に〈新人〉〈女流〉〈天才〉という三重の属性を付与し、それらを誘惑的な話題としていた同時代メディアと共振することで、謎の解明過程において読者の暴露への欲望を喚起した推理小説であること、謎解きが消化不良に終わることから大衆のセンセーショナリズムを批評した作品と論じた。
そして、戦前戦後の探偵小説界を牽引した江戸川乱歩の作品世界における精神病理について、講演「乱歩の世界~心理と狂気を読み解く~」(鹿児島市立天文館図書館、2024年2月10日)を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和5年度の研究実施状況としては、当初の予定通り、松本清張「地の指」、同「天才画の女」、竹本健治「匣の中の失楽」といった戦後ミステリ作品の分析を通じて、時代の精神医学や社会における精神病理観の投影を明らかにし、それらに対して〈謎解き〉という固有のジャンル表現の作用を分析することができた。また、公立図書館における講演という形で、市民に対して本研究の成果を公開することができた。

今後の研究の推進方策

引き続き、研究課題である精神医学言説を視座とした戦後ミステリの作品分析を行っていき、最終的に精神医学史や精神疾患表象の変遷に沿った通史的な研究として纏め上げていく。また、今年度と同様に、講演等の形式で、市民に本研究の成果を公開していく。

次年度使用額が生じた理由

資料調査の出張費用に予定額と多少の差異があった。翌年度の出張にその使用額を加えて執行する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 欲望される〈新人〉〈女流〉〈天才〉――松本清張「天才画の女」論――2024

    • 著者名/発表者名
      鈴木優作
    • 雑誌名

      近代文学論集

      巻: 49 ページ: 75-87

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ミステリにおける奇書の再考 内在する〈狂い〉について2023

    • 著者名/発表者名
      鈴木優作
    • 雑誌名

      ユリイカ

      巻: 55(9) ページ: 128-135

  • [雑誌論文] 〈リアリズム〉としての精神医療――松本清張「地の指」論――2023

    • 著者名/発表者名
      鈴木優作
    • 雑誌名

      社会文学

      巻: 58 ページ: 169-181

    • 査読あり
  • [学会発表] 乱歩の世界~心理と狂気を読み解く~2024

    • 著者名/発表者名
      鈴木優作
    • 学会等名
      鹿児島市立天文館図書館講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 欲望される〈新人〉〈女流〉〈天才〉――松本清張「天才画の女」論――2023

    • 著者名/発表者名
      鈴木優作
    • 学会等名
      2023年度日本近代文学会九州支部春季大会

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi