研究課題/領域番号 |
23K18710
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
千葉 裕太 岡山大学, 文明動態学研究所, 特任助教 (50909041)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | テオティワカン考古学 / オストヤワルコ / 石材利用 / LiDAR測量 / 洞窟 / 黒曜石 / 蛍光X線分析 / 採掘 |
研究実績の概要 |
本研究は、現在のメキシコに位置する古代都市テオティワカンの発展を支えた火山岩資源獲得の実態を、理化学分析とLiDAR測量の二つの軸をもって明らかにすることが目的である。そのために特に、緑色黒曜石とテソントルと呼ばれる溶岩を研究対象としている。 テオティワカン遺跡より出土する緑色黒曜石はこれまで、主に肉眼観察に基づき、ラス・ナバハス山脈からもたらされたものと産地の「推定」がなされてきた。しかし、テオティワカン周辺にある別の産地でも、緑色黒曜石と産地推定されうるような緑がかった灰色の黒曜石の露頭が研究代表者により確認された。そのため、理化学的な産地「同定」を行うこと必要があった。本研究では2023年度、同遺跡月のピラミッド内埋葬墓から出土した黒曜石製品604点について、ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用いて理化学分析を行った。内540点が緑色黒曜石製である。このデータを産地で取得した原石サンプルのデータに照合し現在産地同定を行っている。数点の緑色黒曜石製品がラス・ナバハス山脈とは異なる数値を示しており、検証を行っている。 また、テオティワカンでは建築資材としてテソントルと呼ばれる溶岩が多用され、遺跡周辺にはその採掘跡と考えられる洞窟が点在している。しかし、都市全体の建築をまかなえるほどの石材が採掘できたのかは明らかではない。本研究では、採掘跡と考えられる洞窟のLiDAR測量を行うことで、その容積から、獲得可能な資源量を推定する計画である。2023年度は遺跡西側に位置するオストヤワルコ地区にある、カクタセアス庭園内に点在する71の洞窟群に対して、機材が入らないほど小さい1つを除き、70の洞窟についてLiDAR測量を行った。また、オストヤワルコ地区北部のラ・ホヤ洞窟周辺に33の洞窟入口を確認し、9か所について洞窟内部のLiDAR測量を完了した。現在は測量データの3次元処理を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒曜石分析に関しては、当初計画ではテオティワカンの巨大建造物である「羽毛の蛇神殿」より出土した黒曜石製品について分析を行う計画であったが、メキシコ国内での管理機関の変更に伴い2023年度は分析を行うことができなかった。しかし、別の巨大建造物である「月のピラミッド」出土の緑色黒曜石製遺物に対する蛍光X線分析をほぼ完了することができ、計画していた点数の遺物は分析できたため、おおむね順調といえる。あらためて原産地から原石サンプルを採取することはできなかったが、過去に採取したサンプルが分析に際し十分有効であることも確認できた。 テソントル採掘跡の測量については、当初予想していたより洞窟の数が多く、内部も非常に複雑であり、測量に膨大な時間を要した。2024年度も継続して測量を行う必要があるが、3次元モデル復元の手法が2023年度中に確立できた。新たに高性能なコンピュータを購入したこともあり、データ処理の時間は削減できる見込みであるため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
黒曜石分析に関しては、2023年度に取得した分析結果の検証をまず国内で行う。また、当初分析を計画していたが管理機関変更に伴い分析できなかった「羽毛の蛇神殿」出土の黒曜石製品についても、分析可能な状況となれば理化学分析を行う。加えて、2023年度の分析によりラス・ナバハス山脈以外の数値を示した黒曜石については、再分析を行うとともに、産地露頭の確認と原石採取による検証を行う計画である。これらの分析・産地調査は現地で行う必要があり、2024年度夏以降の実施を計画中である。 テソントルに関しては、まず2023年度に取得した測量データの処理を国内で行う。また、2023年度調査時に洞窟内が非常に複雑であることが明らかになったため、2024年度も継続して測量を行うために必要な装備等の準備を行う。 2024年度夏以降、メキシコ現地を訪れ洞窟のLiDAR測量を引き続き行う。さらに2024年度は、洞窟内で確認できるテソントルの露頭と、遺跡内の建造物で使用されているテソントルに対して蛍光X線分析を行い、産地の確認も行う。年度後半には洞窟の容積の計算および遺跡内のテソントル使用量の概算を行うことで、理化学分析の結果と合わせて、遺跡周辺における採掘のみで都市全体の建築をまかなうほどの石材獲得が可能だったのか、あるいは他の産地から石材を輸入していた可能性があるのかの検証を行う。2024年度も可能な限り測量を行う予定ではあるが、どうしても測量不可能な洞窟については、すでに測量済みの洞窟のデータからテソントル採掘量の予測を立てる方法を検討する。 これらの分析・測量の結果を基に、都市の発展を支えた火山岩資源獲得の実態を、理化学分析とLiDAR測量の2つの軸をもって考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたメキシコ現地調査のための旅費が大幅に削減できたこと、個人でできる調査が十分にあり2023年度は人件費がかからなかったこと、一部外部委託を予定していた蛍光X線分析が委託不要になったことで次年度使用額が生じた。 2023年度調査時に測量予定の洞窟の数や複雑さが想定以上であることがわかったため、2024年度は現地調査期間を当初計画より延長する必要がある。生じた次年度使用額は調査期間延長に伴い増加予定の旅費、機材輸出費用に充てるととともに、2024年度調査では補助人員が不可欠であるため、その人件費に充当する計画である。
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