研究課題/領域番号 |
23K18730
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
師田 史子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (10978761)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | フィリピン / オンラインギャンブル / 闘鶏 |
研究実績の概要 |
コロナ禍で賭博のデジタル化が加速したフィリピンでは、ギャンブル依存が喫緊の社会問題となっている。フィリピンにおいて従来、社会秩序を乱す逸脱的賭博者への対処は共同体内部の制裁が担っていた。一方で近年、問題的な賭博行為を近代西洋医学的な意味での「治療」の対象とする言説が台頭しつつある。 本研究の目的は、賭けへの「過剰」な没頭が「依存症」として病理的言説に取り込まれていく社会動態を明らかにすることにある。具体的には、①デジタル化による遊戯形態の変化を概観し、②国家の病的賭博への施策を整理した上で、③賭博者の語りと実践の変容を分析する。これらを通じて賭博行為における賭博者個人の「責任」概念が生成・強化する様相を、社会構造の変動と個人の日常的実践から複眼的に把捉する。 当該年度は主に、課題①に関して、国家によるオンライン闘鶏の市場開放と規制の経緯について状況整理を行った。コロナ禍中に闘鶏場を閉鎖する代替策として政府がオンライン闘鶏の許可とその整備を図ったことで、オンライン運営の数が劇的に増加しただけでなく、国外を拠点とする不透明な運営も台頭した。オンライン闘鶏に関与する賭博者の失踪など、社会に不安をもたらす事件が頻発したことで、2022年12月、大統領はオンライン闘鶏の中止を宣言した。しかしなお、小規模個人運営や海外拠点のオンライン闘鶏には容易にアクセスできる状況にある。 この状況を確認するために、現地調査を行った。その結果、オンライン闘鶏は完全消滅したという人びともいる中、いまだに遊戯を継続している者も存在していた。さらに、従来闘鶏に参与したことのなかった人びとが、オンライン闘鶏にアクセスし、賭けに興じるようになった興味深い例も確認された。闘鶏場という閉鎖的空間からオンラインに賭けが移行することで、闘鶏への参与障壁が低くなっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
オンラインギャンブルに対する国家政策の不安定性と、運営母体の複雑性が明らかになってきたことで、従来の予定と比して各小課題の探索が難航している。特にオンラインギャンブル業界における中華系勢力の台頭は無視できず、フィリピンだけでなく東南アジア広域に張り巡らされ、現在進行形で拡張しているこの運営ネットワークを紐解くことは、本研究の基底をなすという重要な気づきを得た。この点をめぐる整理に時間を要し、現地調査を主軸とした全体計画がずれ込んでしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は現地調査を集中的に実施しミクロなデータを収集することで、ギャンブル「依存」の概念が人びとの賭け実践の中で構築されていく様相について知見を獲得していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献調査に想定以上の時間を要し、本研究の中核である現地調査の期間が当初計画と比して短縮してしまったため。次年度は現地調査を中心とした実証的研究を進めていく。
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