研究課題/領域番号 |
23K18753
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉田 曉永 早稲田大学, 法学学術院, 講師(任期付) (60979160)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 国連人権条約 / 一般的意見 / 市民社会 / 人権条約の解釈 |
研究実績の概要 |
本研究は、国連で採択されたテーマ別人権条約を素材に、人権条約の解釈において条約解釈規則という視点が不十分であることを指摘したうえで、人権条約機関が一般的意見を作成する際に、市民社会といった国家以外のアクターからの関与を受けていることに注目し、その一般的意見がいかに国家に受容されるのかという動態的プロセスを描き出す理論枠組みを構築することを目的とする。 以上の目的に照らして、本年度は、女性差別撤廃委員会の一般的勧告35号および障害者権利委員会の一般的意見1号、条約解釈規則の観点から人権条約機関の解釈手法を分析した。この分析により、いずれの人権条約機関も、条約の明文上明らかでない義務を目的論的解釈により導いていることが明らかになった。しかし、こうした解釈実践を目的論的解釈と位置づけ、条約解釈規則の基礎たる当事国意思からの逸脱であると評価することは不十分である。なぜなら、こうした一般的勧告・一般的意見の背景には、人権条約機関がNGOなどの市民社会から影響を受けていることがあるためである。この点を明らかにするため、本年度は、女性差別撤廃委員会の一般的勧告35号および障害者権利委員会の一般的意見1号の作成過程、そしてこれらの国家による受容も検討した。 女性差別撤廃委員会の一般的勧告35号については、日本のケーススタディを行い、この一般的勧告がいかに日本の刑法改正に影響を与えたのかを分析し、その成果は2024年3月にウズベキスタンで開催された国際ワークショップで報告を行った。 なお、障害者権利委員会の一般的意見1号についての分析は、2024年6月に開催されるアジア国際法学会日本協会研究大会で報告する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り、人権条約機関が採用する解釈手法と条約解釈規則とを比較し、その上で、一般的意見の作成プロセスと一般的意見の国家への受容をケーススタディを通じて分析することができた。こうした実証分析により、次年度に予定している一般的意見から国家による受容に至る動態を描く理論枠組みの定立に注力できる。 また、当初予定していなかったこととして、障害者権利委員会の一般的意見1号の分析において、国家が一般的意見の立場を受容する際に、国内人権機関が一定の役割を果たすことがわかった。この発見を踏まえて、理論枠組みの定立の際には国家機関、条約機関、市民社会、そして国内人権機関という四種類のアクターに注目して次年度の計画を立てることができている。こうして、当初予定していた計画だけでなく、次年度で検討すべき課題の発見も行えたため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の予定通り、一般的意見作成から国家による受容に至る動態的プロセスを描き出す理論枠組みの定立に注力し、その成果を学会報告ならびに英語論文の公刊に結実させる。 その際、「非公式的国際立法」という既存の理論枠組みを人権条約機関という文脈に合わせて修正しながら、国家以外のアクターが関与した一般的意見が国内で実効的に実現されているのか、その民主的アカウンタビリティーをいかに確保するのかを検討する。上述の通り、一般的意見の中でも、障害者権利委員会の一般的意見1号に着目し、その実効性および民主的アカウンタビリティーといった点で検討をすでに進めている。その実効性および民主的アカウンタビリティーの確保において、内閣府に設置されている障害者政策委員会が果たしている役割について6月に学会報告を予定しており、2024年度中に、その成果を海外雑誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内資金も利用することができたため、次年度使用額が生じた。次年度は当初予定していなかった、国内人権機関に関する調査も必要となるため、その調査のために使用する計画である。
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