研究課題/領域番号 |
23K18801
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
李 晨 京都大学, 経済学研究科, 特定助教 (40984985)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 情報設計 / 私的情報に対する頑健性 |
研究実績の概要 |
今年度は研究実施計画に記載した通り、情報の受け手が送り手に知られていない私的情報を持つ状況に着目し、最もシンプルなベイズ勧告の例を用いて、Esponda and Pouzo (2016)が提唱した考え方に基づく情報伝達ゲームのモデル構築を検討した。ゲームの流れは一般的な情報設計問題と同じである:情報の送り手が情報構造を選んだあとに、受け手が送り手からもらった情報と私的情報を考慮した上で自分にとっての最適行動をとる。しかし本研究では、客観的モデルの他に、プレイヤーたちがそれぞれ主観的モデルの集合を持つと仮定する。ここで、各主観的モデルはプレイヤーたちの効用に直接に影響するゲームの第2段階の結果への確率的予測である。情報の送り手の立場から見ると、主観的モデルは受け手の私的情報に関する不確実性への予測として解釈でき、受け手の立場から見ると、主観的モデルは送り手からもらう情報に関する不確実性への事前的予測として解釈できる。我々が興味を持つ均衡では情報の送り手と受け手のそれぞれの主観的モデル集合上の信念が存在し、均衡戦略がその信念のもとで最適戦略となり、加えてその信念は客観的モデルに最も近い主観的予測にしか正の確率を与えない。このような均衡は情報の送り手でも受け手でも逸脱しない意味で内的な頑健性を保証できるが、受け手が送り手の情報構造選択に関しても間接的に主観的予測を持つことの解釈とモデル化の仕方は困難であった。 上記理論モデルの構築を検討したほか、今年度は引き続き関連研究の情報収集を行い、重要な先行研究を改めてレビューし、各手法の類似点と違いを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べた通り、Esponda and Pouzo (2016)が提唱した均衡概念を最小限に修正して適用する場合には、情報の受け手が送り手の戦略、すなわち情報構造選択に関しても間接的に主観的予測を持つ必要がある。しかし、情報設計問題は逐次手番ゲームであり、受け手が戦略を選ぶ前に送り手が送った情報を観察できるため、送り手の情報構造選択について主観的予測を形成する必要性を説明するのは困難だと思われる。また、Esponda and Pouzo (2016)が指摘した通り、プレイヤーたちの信念更新を明示的にモデルに記述する必要があるため、彼らのモデルを同時手番ゲームから逐次手番ゲームへ拡張する際の適切なアプローチは自明ではない。上記問題が解決できなかったため、今年度で完成する予定のモデル構築は成功しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に完成させる予定のベイズ勧告の例を用いるモデルの構築を引き続き検討する。具体的に、情報の受け手が送り手の戦略に関してまったく予測しないもしくは完璧に予測できるといった解釈しやすいケースを考察する。得られたモデルの一般化を検討し、予定通りに均衡概念に着眼する情報設計問題に関する先行研究との比較検討を行う。 また、当初の予定とは違うが、情報の送り手のみが受け手の私的情報に関してEsponda and Pouzo (2016)型の主観的モデルを形成する理論モデルを検討する価値も十分にある。送り手の主観的モデルは第2段階ゲームの結果への予測となるため、最適情報構造のもとでどういった結果が実現されるかを調べ、同じくゲームの結果に着目するBayes Correlated Equilibriumなどの概念との関連を精査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の進捗が遅れているため、論文作成用のパソコンと周辺機器の購入、および研究発表と研究打ち合わせを見送ったため、次年度使用額が生じた。 次年度では、今年度に予定した物品購入を実行して論文作成環境を整備する。また、積極的に学会に参加して情報収集し、本研究に関する打ち合わせと成果発表のために旅費・論文の校閲費用などを適切に使用する。
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