研究課題/領域番号 |
23K18838
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研究機関 | 中央学院大学 |
研究代表者 |
丹羽 宣子 中央学院大学, 現代教養学部, 講師 (70976018)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 仏教 / 宗教 / 家族 / 僧侶 |
研究実績の概要 |
本研究は、仏教寺院と住職家族の現代的課題を析出することを目的としている。近現代の日本仏教寺院では父から子への世襲継承が定着しており、寺院は住職家族にとって生産・生活の基盤となってきた。しかし今日の日本社会において、住職家族も家族をめぐる社会変動とは無関係ではいられない。伝統仏教寺院のあり方について、近現代の社会変動や家族規範の変化を踏まえつつ、寺院の維持運営と家族の現在を明らかにすることが本研究の目的である。 2023年度は主に、本研究課題で事例とする日蓮宗の住職家族への聞き取り調査を行なった。仏教とジェンダーに関する先行研究では、寺院の維持運営には夫である住職と妻である寺族・寺庭夫人の性別役割分業が前提とされてきたことが示されてきた。特に妻には寺院の美化や清掃といった裏方的役割、いつ何時檀家や来訪者がきても応接できるような対応が求められるということが強調されてきた。しかし聞き取り調査からは、妻も一般の職業を持っているため寺院に不在となるケース、共に僧籍をもつ夫と妻の協働などが見出された。特に、前者の住職の妻が一般の職業に就いているケースは、先行研究ではほぼ触れられていなかったものである。寺院収入のみで家族を養えない場合、かつては夫である住職が平日は公務員として兼業することはよく聞かれたが、今日では妻が外に働きに出るケースも無視できない程度には生じていることが確認できた。「お寺の奥さんはいつも寺にいるもの」というイメージは根強いものの、寺院経済の悪化により、住職夫妻の分業のあり方にも変化が生じていることが見出される。 このほか、1980年代以降の宗教専門紙で報じられた住職家族に関する報道資料の収集も行なった。 2024年度も引き続き調査と分析を進め、得られた成果は国内学会で口頭発表するほか、その成果は論文化する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は聞き取り調査の他、住職家族に関する宗教専門紙の報道や教団機関誌等の資料の収集を主に行なった。文書資料の収集については前倒しで進めることができたが、聞き取り調査は若干、想定していたよりも進度が遅れている。特に寺庭婦人の規範・役割に関する調査は、当初の計画から見直しが必要であると判断するに至った。計画時ではある程度年齢を重ねてた寺庭夫人への半構造化インタビューを行い、寺庭婦人像の過去と現在の変化を捉えようとしていた。しかし、一般の職業をもつ僧侶の妻らが今まさに直面している課題、彼女らが周囲とどのように交渉しているのか、夫側の意識などの実態を明らかにすることに主力を置くことにより、本研究の第一課題である「住職家族の性別役割分業の現代的諸相」にアプローチできるものと思われる。当初の計画は修正することになったが、時代の変化を適切に捉えうる調査設計に変更することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画を修正した調査データの収集を行いつつ、特に、近年の社会変動を踏まえた家族社会学的知見にも学びながら、独自の分析枠組みを設ける。そのうえで、住職家族の現代的諸相を明らかにしていき、研究成果の発信につとめる。 2024年度の重点課題は、「寺院継承における家族型仏教の規範化」の検証である。これまでの調査からも、住職家族も一般社会の家族規範・家族像の変化の影響を強く受けていることが明らかになりつつあるが、一方で、寺院の継承では血縁主義が強まっていることを予測させるデータもある。住職家族をめぐる諸問題にアプローチする研究を展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度においてやむを得ず実施できなかった調査研究を実施するための諸経費として使用する。具体的には、調査計画を修正することになった「住職家族の性別役割分業の現代的諸相」に関する調査旅費とそれにかかわる消耗品の購入にあてる。
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