研究課題/領域番号 |
23K18844
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
前田 一歩 立教大学, コミュニティ福祉学部, 助教 (10981558)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 都市公園 / 野宿者 / 計量歴史社会学 / 社会政策 / 空襲罹災 / 壕舎生活 |
研究実績の概要 |
本研究は、近現代日本社会における公共空間、特に都市公園が、一般利用者の権利を部分的に侵害しながらも、住居を失った人々を収容し支援する場所としての役割を獲得するにいたった過程を明らかにすることを目的とする。 この研究には2つの側面があり、ひとつには造園史研究に存在する「計画史」と「生活史」という2つの立場を、社会学の理論と方法を用いることで架橋し「社会問題史としての都市公園史」の視座を提起する、学説・理論研究的な側面がある。もう一方には、この視座を援用して①昭和恐慌期~戦後期の失業者問題、②戦時体制下・戦後復興期における空襲罹災者の住居問題を分析する、実証研究的な側面である。 その結果、①昭和恐慌期~戦後期の失業者問題については野宿者の空間占拠の追認される過程が後づけられ、②空襲罹災者の住居問題については、行政による特例的な公園の空間改変と平常時への復旧過程が明らかにされる。この分析過程では、公園の計画者や管理主体の資料分析と同時に、当時の社会政策的実践へと影響を与えた社会調査データの復元と分析が行われ、本研究の2つの軸をなしている。2023年度においては調査資料の復元分析の下準備をしつつ、周辺資料の質的読解が進められた。具体的には、関東大震災後・昭和恐慌期・戦時中および戦災復興期の困窮者に対する社会政策全般のなかに、住居を失った者(野宿者)の対策がいかに位置づけられていたのか、公園野宿者をとりまく背景についての分析を進めた。その背景のもと公園野宿者がいかなる境遇にいたのかを、歴史資料および社会調査資料(当時の報告書等)をもとに基礎的な事実を明らかにしつつ、当時の統計データの復元と再分析をもとに、これまで明らかにされてこなかった明瞭な像を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度においては資料調査を基本としつつ、社会調査データの復元に向けた作業を実施した。まず昭和恐慌下の東京における公園野宿者問題についての分析については、関東大震災の復興計画以降、東京の公園行政の中心的役割を担った井下清の言説を分析し、そのなかに野宿者と一般利用者の共存をめざそうとする管理思想が存在することを提示し、学会等における報告を実施した。この成果の一部を使用した学会報告に対しては「日本社会学理論学会奨励賞」を受賞している。また、東京・横浜ついで名古屋についての空襲関連資料を、戦後の公園計画との関連で収集・調査し、分析を進めている。 社会調査資料の復元については「都内壕舎生活者調査」(1950)および「日雇労働者 職歴・生活歴調査」(1951)の画像データの整備を進めている。ただし代表者の研究機関異動があったことから、当初の目標であったデータセット完成に向けた整備作業については、着手できないままであり遅れが発生している。上述の歴史資料の分析作業においては順調に進展している一方で、復元二次分析においては進展が少なく、総合的に「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度以降は、引き続き、上記課題についての文書館における資料調査と社会調査データの復元分析に向けて研究活動を進める。 とくに注目するテーマとして、関東大震災および第二次大戦中の空襲に際して、六大都市(東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)の公園に設置されたバラック小屋の形成から撤収までの過程をまとめる作業を進める。 さらに、代表者の研究機関異動にともなう作業環境の(再)構築を、東京大学社会科学研究所附属社会調査データアーカイブ研究センターの佐藤香教授の協力・指導のもとに進める。そのうえで、調査票画像データの確認と完成にかかわる前年度の積み残し作業を完了させる。画像データが完成したのちには、表計算ソフトへの入力作業を進めることで、調査データをコンピュータで計算可能なデジタルデータに変換し、分析を実施する。作成したデータセットについては佐藤香教授と相談のもと、東京大学社会科学研究所SSJデータアーカイブへの寄託を行い、調査データを広く他の研究者への公開を目指す。なお空襲罹災者については復元分析中の「壕舎生活者調査」(1950)の周辺資料および同時代資料の分析を進める。こうして従来の文書館調査を中心とする歴史研究と、計量歴史社会学的研究の相補的な分析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前項で述べた通り、研究機関の異動にともない、資料復元にかかわる作業に遅れが生じている。具体的には調査票の画像データの整備が完了していないことから、調査票画像の印刷・製本の委託、入力作業にともなう作業委託の費用を2023年度から2024年度に移すこととなった。復元作業のうち、調査票の記載内容を表計算ソフトに打ち込み、コンピュータ上でクリーニング、解析する作業に必要な物品、および統計ソフトフェアについても、予算執行を見送り、2024年度に予定することとした。これらは消耗品であると同時に買い切りのソフトウェアである場合には、アップデート等を加味すると必要になったタイミングで購入することが合理的であると判断したためである。以上から、復元にかかわる作業のうち画像データが完成したのちの作業にかかわる経費(人件費・物品費)を2023年度から2024年度に振り替えて使用する予定である。 さらに研究機関の異動の余波として、出張を必要としない首都圏における資料調査を優先的に行ったことも挙げられる。たとえば東京大学図書館や国立国会図書館、神奈川県立図書館における調査を実施した。また成果報告のために計上していた学会報告・研究会報告についても、東京での開催だったために2023年度においては出張が発生しなかった。これら調査および学会・研究会にかかわる出張を2024年度に実施する予定である。
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