研究課題/領域番号 |
23K18926
|
研究機関 | 第一工科大学 |
研究代表者 |
森田 大輔 第一工科大学, 工学部, 助教 (40983325)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
キーワード | 数学教育 / 教師教育 / 高等学校 / アイデンティティ / 問題解決型授業 / 言説 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の高等学校数学教師のアイデンティティの形成過程を明らかにするとともに,高等学校数学科における問題解決型授業の実現可能性を検証するための新たな分析視角を提示することである。 2023年度は,主に先行研究のレビューを主とした理論的研究に従事した。まず,研究者がこれまで従事していたライフストーリー研究(個人のライフに焦点を合わせてその人自身の経験をもとにした語りから,自己の生活世界そして社会や文化の諸相や変動を全体的に読み解こうとする質的調査法)において重視されている「語り方」に着目し,教師教育研究において語り方に着目することの意義を,研究的意義・教育的意義の2点から明らかにし,日本科学教育学会第47回年会にて発表した。また,ミシェル・フーコーのポスト構造主義に着目し,日本の数学教師のアイデンティティを捉える理論的枠組みの構築を行い,日本数学教育学会第56回秋期研究大会にて発表した。さらに,フーコーのポスト構造主義における主要概念として位置づいている「言説」に着目し,一連の先行研究群から高等学校における数学学習に関する言説を抜き出し,整理・考察を行い,全国数学教育学会第59回研究発表会にて発表した。 また,インタビュー調査に基づいた実証的研究にも着手している。高等学校に勤務する若手数学教師1人にインタビュー調査を行った。ポスト構造主義における言説から派生し,イギリスの教育社会学者であるバジル・バーンスティンの理論に着目したことで,その教師の語りの特徴やアイデンティティの形成を明らかにすることができた。この成果は,九州数学教育学会令和5年度第2回研究発表会で報告をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インタビュー調査を通して,数学教師のアイデンティティの形成過程を看取るとともに,その教師の社会的背景を明らかにすることは,高等学校数学科における問題解決型授業の実現に向けたアプローチとして有用であると考えられる。理論的枠組みに関する検討は計画的にできている一方,その枠組みを精緻化するために必要なインタビューデータは十分に取ることができなかった。そのため,現在までの達成度を「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
実証的研究として,インタビュー調査の更なる実施が挙げられる。研究者は,教育現場での調査を実施するための人脈を複数有している。とりわけ,関東近県や九州南部の高等学校に勤務する数学科教員にインタビュー調査を行い,言説の観点から数学教師のアイデンティティやその社会的背景に対する考察を深めていく。 また,インタビューデータの分析を行いながら,理論的研究として理論的枠組みの精緻化や問題解決型授業の実現可能性を検証する分析視角の検討を行う予定である。とりわけ,バーンスティンの理論の観点から見た,数学教師のアイデンティティに対する考察が十分にできていないため,アイデンティティの形成過程を捉えるための分析手法や考察の観点を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
対面によるインタビュー調査の機会がなかったため,計上していた額を使用できなかった。 2024年度は,インタビュー調査に関する渡航費や,国際学会への参加費・渡航費等に使用する。
|