研究課題/領域番号 |
23K19158
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
黒澤 未來 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (30979159)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 非構造部材 / 耐震性能 / 施工性 |
研究実績の概要 |
2023年度は、非構造部材に強制変形を与えるための実験装置の設計および実験計画を行った。この装置は、建設業界の人手不足の問題解決に向けて、簡易な施工方法の普及を目指したものである。まずは鋼製外装材を用いた非構造外壁を対象として、従来の施工方法と機械を併用した新たな施工方法による施工の簡易性を定量化する。その後、上述した実験装置によって非構造外壁に強制変形を与える実験を行い、外壁の構造安全性と施工の簡易性の関係を明確にする。これは、交付申請書に記載した「設計時の各種要求性能が耐震性能に及ぼす影響を確認し、地震後の継続使用性の評価方法を構築する」という本研究目的の達成に向けた重要な要素である。 建設業界の人手不足の問題解決方法の一つとして、部材どうしを接合する際に溶接工程を省略することが挙げられる。そのため、本研究にて取り扱う非構造部材においても溶接を必要としないボルト・ねじ類のみによる接合方法を推奨する。実験装置の設計では、非構造外壁ねじ接合部のゆるみに影響することが考えられる、外壁面外方向に応力を与える仕組みを取り入れた。 実験計画としては、試験体のパラメータを決定した。試験体は2枚の外装材とその周辺部材からなる規模とし、外装材、接合部材であるねじにはそれぞれ汎用性の高い2種類を選定した。なお、ねじは従来のインパクトドライバーによる施工方法にて用いられる1種類と、機械を併用する新たな施工方法にて用いられる1種類とする。施工の簡易性は、ねじの締め付け時に施工者がねじを締め付ける締め付けトルクおよびねじを押し付ける荷重を計測することで評価する。また、施工後は構造実験を行い、その後にねじの戻りトルクを計測することで地震や強風などの災害後の継続使用性を評価する。これらの一連の実験の実施および成果発表については、現在進めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請当時は、初年度である2023年度に屋外鉄骨階段を対象とした実験計画を行う予定であったが、実際の被害の有無と建設業界における人手不足という深刻な問題に早急に対応するため、外壁へと実験対象を変更して計画を立てた。階段や外壁をはじめとする非構造部材の施工において、施工者の数や技能不足は建設工期の遅れや建築物の品質低下に直結する。したがって、交付申請書に記述し、本研究にて着目している「設計時の各種性能」において、施工の簡易性と耐震性能の関連について明確にすることは特に重要であると言える。 実験の計画は行ったものの、実験の実施および実験データの整理まで至らなかったため、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である2024年度は、前年度に計画した一連の実験の実施、実験データの整理、および研究成果の発表を行う。実験によって施工の簡易性と耐震性能を定量化し、双方の関連について検討する。取りまとめた実験の成果は、日本建築学会構造系論文集への投稿や、国内外の学会にて発表する。 一方、上述した実験では、施工の簡易性と耐震性能の関連を検討することに留まる。2024年度は、申請当初に着目した地震発生直後の避難時の安全性まで拡張した検討を行うことを目標とする。特に、近年多く確認される地震後の余震によって非構造部材が脱落すれば、安全な避難が実行できない危険性があると言える。 ただし、非構造部材は多くの部材によって構成されるため、構造実験の試験体そのものの規模も実験結果に影響する可能性がある。したがって、最終年度に追加実験を実施する場合には、慎重に実験計画を行う必要があると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、本研究課題の初年度に構造実験の実施まで至らなかったことが挙げられる。最終年度である2024年度は、構造実験の実施に伴い試験体および実験装置の製作費が必要となる。また、実験後のデータの整理、成果発表のための学会参加費や出張費、論文執筆後の投稿費に使用することも予定している。
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