研究課題/領域番号 |
23K19181
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 吉史 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (10982118)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 無機有機複合材料 / ガラス転移 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)は、金属酸化物クラスター間を有機リンカーが配位した無機有機多孔質材料である。近年、MOF材料において、ガラス転移現象が見いだされ、ガラス化したMOFは通称MOFガラスと呼ばれる。MOFガラスは、MOFと同様に多彩な材料設計が可能なことに加え、マイクロ孔の多孔質構造を持つため、ガス透過・吸着特性を示す。そのため、MOFガラスは触媒担体や光触媒材料として非常に魅力的である。しかし、MOFガラスは近年発見された歴史の極めて浅い材料であるため、その光触媒特性に関する研究は未だ報告されていない。 本研究では、MOFガラスの光触媒機能を創出するとともに、ガラス化が光触媒活性に与える効果やその反応機構を明らかにすることを目的としている。さらにMOFガラスの特異な物性を活かした新規光触媒設計および利用指針の提案を目指す。 本年度は、MOFガラス合成手法の検討を行った。具体的には、Zn系MOF(Zn-MOF)をソルボサーマル合成によって調製し、アルゴン雰囲気下で焼成を行った。その後、Zn-MOF粉末を流通式管状炉にてアルゴン雰囲気下での焼成を行った。焼成後、白色のMOF粉末が透明の固形物に変わり、X線回折から結晶構造が非晶質へと変化したことが明らかとなった。また、焼成温度の増加によって、Zn-Nの配位数の低下が示唆された。すなわち、Zn-MOFはアルゴン焼成によるガラス化によって、長距離秩序構造が崩れ、MOFのZn金属クラスターに配位不飽和サイトが形成されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、MOFガラスの光触媒特性やその反応機構を明らかにし、MOFガラスの特異な物性を活かした新規光触媒設計および利用指針を立案することを目的としている。当該年度は、ガラス転移が報告されている亜鉛イオンとイミダゾール系の有機リンカーから構築されるZn-MOFの合成条件とガラス化の合成プロセスの構築、アルゴン焼成前後の構造変化の調査を行った。 具体的には、Zn-MOFの合成時に2種類の有機リンカーの混合比を変化させることによって、ZIF-7やZIF-62の結晶構造のZn-MOFが得られることが分かった。ZIF-62の結晶構造を有するZn-MOFについて、アルゴン焼成の条件検討を行った。450℃前後の温度でのアルゴン焼成により、Zn-MOFがガラス化する現象が見られた。加えて、焼成条件の検討により、異なる焼成温度でのMOFガラスの作製に成功した。X線回折(XRD)において、アルゴン焼成後にMOF由来のXRDパターンが消失しており、アルゴン焼成によって非晶質になったことが確認できた。また、Zn K-edge X線微細構造(XAFS)測定より、ガラス化の際のアルゴン焼成温度の増加によって、MOFガラス中に配位不飽和なZn種が形成されることが示唆された。 以上の研究結果から、当該研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
MOFガラスは極めて歴史の浅い材料であり、その光触媒機能は未だ明らかになっていない。本年度はZn-MOFの合成条件の最適化とガラス化プロセスの構築を行った。その際にZn-MOF内に含まれる2種類の有機リンカーの混合比が異なる試料や異なるアルゴン焼成温度でのMOFのガラス化に成功している。 2024年度は、MOFガラスの光触媒機能の実証とMOFのガラス化が光触媒機能に与える影響について調査を行う。具体的には、MOFガラスの光触媒機能を調べるプローブ反応として、過酸化水素生成反応や水素生成反応を行う予定である。MOFガラスの光触媒反応は既報のない未開拓領域であるため、まず反応溶媒等の光触媒反応の反応条件の検討を行う。その後、MOFのガラス化温度やZn-MOFに含まれる2種類の有機リンカーの混合比の異なる試料での光触媒活性を比較を行う。光電流測定やフォトルミネッセンス測定、電子スピン共鳴測定などを通して、MOFのガラス化条件やリンカー混合比による活性との相関関係やMOFガラスの光触媒反応の反応機構を明らかにする。以上の研究を通して、MOFのガラス化が光触媒特性に及ぼす効果に関してより包括的な知見を得ることを目指す。それに加えて、MOF光触媒の酸化物クラスターのバイメタル化による光触媒活性の向上や光応答性のナノ粒子との複合化による高機能化についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな理由は、2023年度に購入予定であったガスラインの購入を行わなかったためである。研究計画段階ではMOF粉末の合成はアルゴン等の不活性ガス下で行う予定であったため、2023年度にアルゴン雰囲気下での合成を目的としたガスラインを購入予定であった。しかし、研究のMOF合成条件の検討の際に大気下(空気中)での合成に成功したため、ガスラインを購入しなかった。 次年度使用額(約39万円)は放射光X線回折やX線微細構造測定を行う際の放射光施設の利用料とその旅費、光触媒反応で用いる単色光LEDランプの購入で使用する予定である。
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