研究課題/領域番号 |
23K19199
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
白倉 孝典 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任助教 (60968808)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
キーワード | スピン軌道トルク |
研究実績の概要 |
本研究はスピン軌道トルクを用いた磁性細線メモリの磁壁形状を形状磁気異方性で制御することでさらなる低消費電力化を実現するための指針を探索することが目的である。2023年度はその準備として、本研究で用いる高効率にスピン軌道トルクを発生可能なトポロジカル半金属YPtBiを熱酸化Si基板上に製膜する技術を開発した。今までに報告されてきたc-Sapphire上のYPtBi薄膜は111面配向で成長していたのに対し、熱酸化Si上のYPtBi薄膜は最密面である110面に配向し成長することが分かった。二次高調波法を用いて110面に配向したYPtBi薄膜のスピンホール効果を評価したところ、スピンホール効果の強さを示すスピンホール伝導率が111面に配向したYPtBi薄膜よりも大きな値を示すことが分かった。内因性スピンホール効果の強さがベリー曲率とフェルミ分布関数の積の積分で与えられることと、YPtBiの内因性スピンホール効果がトポロジカル表面状態のディラック点付近の寄与により決まることから、ディラック点とフェルミ準位のエネルギー差が配向面に依存することに起因すると考えられる。また、Taバッファ層やCrOxバッファ層を用い、110面に配向したYPtBi薄膜の結晶性を向上させることで、熱酸化Si基板上でも1を超える巨大なスピンホール角を有するYPtBi薄膜を実現することに成功した。また、2024年度の準備としてマイクロマグネティクスシミュレーションの立ち上げを行い、磁性層として用いるCoPt積層膜とYPtBi薄膜のヘテロ接合系における実験的パラメータを用いて磁壁形状の磁性細線幅依存性の試算を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
利用を予定していた共用設備の電子線露光装置が長期間故障しており、形状磁気異方性が支配的となる数十nmオーダの磁性細線を十分作製することができなかったため。
|
今後の研究の推進方策 |
電子線露光装置の修理目途が立ち次第細線を用いた実験に移行し、磁壁移動に必要な電流密度の磁性細線幅依存性を評価する。また、修理が長期化する場合はARIMの共用電子露光装置の利用を検討するが、利用料金の問題で十分なサンプル数を用意できない可能性がある。その場合は本年度抽出したCoPtとYPtBiの接合系における実験的パラメータを用いたシミュレーションにより形状磁気異方性を用いた磁性細線メモリの低消費電力化指針の確立を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
電子線露光装置を利用した実験結果を踏まえマニピュレータの改造を行う予定であったが、先に述べた電子線露光装置の故障によりマニピュレータの改造を見送ったため。 本年度は昨年度予定していたマニピュレータのヒータ改造を行うとともに、本来予定していたスパッタリング装置のシャッターの改造も行う予定である。
|