研究課題/領域番号 |
23K19214
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 倫実 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (80970003)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 生体模倣デバイス / 肝細胞 / 血管新生 / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
マイクロ流体デバイス内において,肝類洞内皮細胞(LSEC)で構成される灌流可能な血管網を肝細胞周囲に3次元的に実装することに成功した.肝細胞に線維芽細胞と肝類洞内皮細胞を添加して自律的に形成したスフェロイドをデバイスに導入した場合,スフェロイド方向の血管新生と周囲での血管網の形成がみられた.このとき,血管がスフェロイド内部で管腔を形成できず,血管網の灌流性が損なわれることが明らかになった.しかし,この課題は,スフェロイドに0.1 mg/mLのcollagen type 1を含ませ,3%メチルセルロース内で急速にスフェロイドを形成することで解決され,スフェロイド周囲の血管網の灌流に成功した. 血管網の形成が確認されたデバイスにおいて,スフェロイドをデバイスから摘出して凍結切片を作成し,免疫染色をおこなった.その結果,スフェロイド内部に肝類洞内皮細胞のマーカーであるCD31が帯状に観察されたことから,スフェロイド内部においても血管が形成されていることが示唆された. また,デバイス培養したスフェロイドの肝機能評価として,アルブミンの免疫染色評価と尿素合成量の定量評価をおこなった.本研究において,肝細胞はヒト肝がん由来細胞株のHepaRG細胞を用いている.スフェロイドに含まれるHepaRG細胞においてアルブミンの発現が確認された.また,デバイス培養におけるHepaRG細胞の1細胞あたりの尿素合成量は,培養7日目以降において2次元培養されたヒト初代培養肝細胞の約2.6倍であり,培養11日目まで維持されることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝スフェロイドへの線維芽細胞の導入によって,スフェロイド方向への血管新生と周囲における血管網の形成に成功した.また,スフェロイド内部や周囲の血管網に灌流性を持たせるためのスフェロイド作成条件を見出し,最適化した.以上から,生体外で経血管的に培養液や薬剤をスフェロイド周囲および内部に輸送可能なプラットフォームの原型を確立することができた.さらに,開発されたデバイスで培養された肝細胞におけるアルブミンの発現と,2次元培養された肝細胞よりも多くの尿素合成量を確認できたことから,薬剤評価可能な水準で肝機能が維持されていることが示唆された.以上より,次年度は計画通り,本デバイスを用いた薬剤評価に移ることができるため,おおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,胆管の発現など,デバイス培養スフェロイドに関する追加の機能評価をおこなう.また,本デバイス内で血管網を構成する肝類洞内皮細胞には,リンパ管マーカーを発現する,細胞質に小孔が存在し高い物質透過性をもつ,などの特異性があるが,それらの特異性がデバイス内でどの程度保持されているかの評価に挑戦する. さらに,リファンピシンなどのチトクロームP450誘導剤を薬剤候補として選定し,開発したデバイス内における薬物代謝評価を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
肝機能の評価のための試薬の選定に時間がかかったため年度内に購入ができなかったことと,科研費取得以前に購入していた細胞や培養液のストックが十分にあり,本年度内で追加購入をする必要がなかったことから,次年度使用額が生じた. この額は,今年度購入できなかった分の試薬や抗体の購入と,来年度必要となる細胞や培養液,薬剤評価用の化合物の購入の際に,翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である.
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