研究課題/領域番号 |
23K19249
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永井 薫子 九州大学, 工学研究院, 助教 (30978888)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 精密高分子 / 制御ラジカル重合 / マイケル付加反応 / 分子認識 / 高分子医薬 |
研究実績の概要 |
タンパク質や核酸等からなるバイオ医薬品は、低分子医薬品と比べて薬効が高く副作用は少ないため薬剤分子として有用である。一方で、分子量が大きく構造が複雑で、熱的・化学的安定性も低いために大量生産は難しい。そのため、近年、バイオ医薬品に代わる新たな医薬として、安価に大量合成可能な合成高分子の利用が試みられている。しかしながら、既往の合成高分子は、分子量やモノマー配列が不均一なため機能が低く、副作用の懸念から実用化には至っていない。そこで本研究では、分子量や配列が完全に規定された合成高分子(精密高分子)を合成する技術を開発する。 本年度は、近年急速に発展してきた制御ラジカル重合やクロマトグラフィー技術により、モノマー配列、分子量さらに立体構造まで完全に均一なオリゴマー(精密オリゴマー)を合成することに成功している。本研究では、メリチンを標的分子モデルとして用い、メリチンとの静電相互作用および疎水性相互作用を期待して、3種類のモノマー(acrylic acidとtert-buthyl acrylamideとphenyl acrylamide)からなる精密オリゴマーを基本として技術開発を行った。いずれのオリゴマーにおいても、オリゴマー末端にマレイミド基とチオール基をそれぞれ提示することを達成したため、オリゴマー同士をチオールーエン反応によって連結させた。精密オリゴマーを連結することで分子量を増大させ、高分子化を目指している。メリチンとの相互作用評価も行い、オリゴマー配列の違いによる分子認識能の差を観測することができた。さらに、オリゴマーの立体構造由来の分子認識能の差も示唆される結果が得られたことから、オリゴマーの立体構造に着目した物性についても今後調査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子量、モノマー配列そして側鎖の立体構造が一義的に規定された精密高分子は、精密オリゴマーを連結することで合成を試みている。精密オリゴマーの合成で要となる制御重合性と量体数分離およびキラル分離について、本研究では新規に合成した連鎖移動剤を用いたため、その重合性、安定性、分離条件が全く不明であった。3種類のモノマー(acrylic acidとtert-buthyl acrylamideとphenyl acrylamide)から合成されるオリゴマー混合物は、いずれも仕込み比通りの重合制御性を示した。また、逆相カラムクロマトグラフィーを用いて、モノマー数に基づく量体数分離の条件を検討した結果、1量体、2量体および3量体の分離に加え、2量体と3量体のジアステレオマーを分離することにも成功している。得られたオリゴマーの両末端をそれぞれ官能基導入するための反応スキームも考案し、非常に順調に研究が進んでいる。マレイミド基とチオール基をもつテレケリック精密オリゴマーの合成は世界初の報告である。チオールーエン反応によるオリゴマー同士の連結も検討しており、UPLC-MS分析によって評価を行っている。現在までのところ、モノマー配列の違いで標的分子(メリチン)に対する分子認識能に差が出ることは示唆されているが、オリゴマーの構造と機能との相関の解明には至っていないため、今後も検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オリゴマーの化学構造に着目した活性や機能の違いについても評価を行っていく。これまでの検討の中で、オリゴマーのモノマー配列に依存した分子認識能の違いを観測し、さらに、オリゴマーの立体構造によって溶液中での自己組織化能に違いがあることも示唆される結果が得られている。したがって、オリゴマー自体の物性の評価をより詳細に検討していくことで、連結反応により高分子量化した際の物性にも違いがでるのではないかと期待できる。新たに、親水性モノマーのAcryloylmorpholineや正電荷をもつモノマーを追加することで、精密オリゴマーライブラリの拡張と連結による機能の発見を目指す。
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