研究課題/領域番号 |
23K19277
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
瀧野 純矢 北海道大学, 理学研究院, 助教 (10979082)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 酵素反応 / 化学反応 / 固定化酵素 |
研究実績の概要 |
有用な天然資源である天然物は、主に化学反応による化学合成と酵素反応によるバイオ合成によって供給される。しかしながら、化学合成では工程数の多さ、バイオ合成では汎用性の乏しさなど、従来の合成法はそれぞれに課題がある。本研究課題では、酵素を固相担体に担持した固定化酵素を利用し、化学反応と酵素反応を連続的に行うことで、従来法の課題を解決するストリームライン合成法の確立を目指した。 本研究課題では、1)酵素の固定化、2)膜タンパクの固定化、3)フロー法への展開の3段階で計画した。本年度は、このうち1)2)について検討を行なった。1)では、予備検討で利用した還元酵素を、フロー法への利用を見据えた圧力損失の少ない4種の担体に吸着させ、酵素の担持量および酵素活性を測定した。その結果、新たに検討した全ての担体において酵素の吸着は行われるものの、吸着能の高さや担体構成成分などが問題となり、十分な酵素活性が得られなかった。2)では、固定化酵素を利用した反応系の適用範囲を拡張するため、天然物生合成で頻繁に利用される酸化酵素シトクロムP450の固定化検討を行なった。本酵素は生体内において細胞膜と結合している膜結合型タンパクである。そのため、酵素全体から膜結合領域を除いた部分のみをクローニングし、大腸菌を用いた組換タンパクの調製、酵素活性測定を行なった。現在までに、検討したP450について酵素の取得に成功したが、酵素活性は見られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現段階で予定していた研究計画の3分の2まで終了しており進行度としては順調である。しかし、固定化担体の検討において酵素の固定化、繰り返し利用に成功しているものの、当初の予定であった連続フロー法への利用に向けた圧力損失が少ない担体では十分な酵素活性が確認できなかった。これ以上の検討を行うには、材料面のアプローチが必要であるため、計画の方針を変える必要があると思われる。また、膜タンパクの固定化については、膜結合領域を除いた活性部分の調製に成功したが、酵素活性を確認できなかった。この問題について、電子伝達系との共発現や遺伝子増幅領域の変更などを行なったが解決には至っていない。今後は標的タンパクの変更やDNA配列の修正などが必要となる。 以上の理由から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展しているが、現在得られている知見から方針を修正する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画として、連続フロー法に固定化酵素を組み込むことで基質合成と酵素変換を一気通貫で行うシステム構築を目標としていた。しかしながら、現在までに、フロー法への利用に適した担体を見つけられていない。そこで、今後の研究推進方策として、合成面でのアプローチ強化を図る。すなわち、化学反応の長所である汎用性の高さ、スケールアップの容易さを利用し、多様な構造を持つ酵素反応基質候補を合成する。合成した化合物を酵素変換系に供すことで、化学合成・バイオ合成のどちらか一方だけでは合成が難しい非天然型構造の創出を行う。酵素変換系としては、繰り返し利用できる固相担体への固定化酵素や、膜タンパクを含む場合には大腸菌・酵母・麹菌などの異種発現株を利用する予定である。非天然型基質の利用は酵素変換効率の低下が危惧されるが、固定化酵素であれば低収率の反応を繰り返し行うことで総収量の確保が可能である。また、酵素活性部位における基質の立体構造が類似しているならば十分な変換率で酵素反応が進行するという知見が最近報告されているため、非天然型基質の酵素変換は可能であると考えられる。 以上のように、今後の研究推進方策として酵素変換に用いる多様な構造を化学合成によって供給することで、非天然型構造創出を行う。合成アプローチ面を強めることで今後の研究活動の幅が広がることも期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、1年目での研究計画では、化学合成とバイオ合成を組み合わせた天然物ストリームライン合成を連続フロー法によって達成し、大スケールでの天然物合成を一気通貫で行う予定であった。しかし、研究過程で当初想定していた連続フロー法の利用が困難であることがわかった。そのため、予定していた有機合成試薬、生化学試薬の購入が不要となった。この経緯を受けて、2年目には化学合成の利点を活用した研究計画として、酵素反応基質の構造多様性創出を目指す。したがって、多種の有機合成試薬の購入が予想され、1年目使用予定額を次年度使用とする。また、得られた研究成果を学会発表するための旅費としても予算を充てる予定である。
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