研究課題/領域番号 |
23K19281
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 大宜 京都大学, 農学研究科, 特定研究員 (70980580)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | アルコール脱水素酵素 / 酵素電極反応 / 直接電子移動 |
研究実績の概要 |
1.基質特異性の改変に繋がる研究成果 酢酸菌由来アルコール脱水素酵素(ADH)とメタノール資化性菌由来メタノール脱水素酵素(MDH)の相同性に注目し,ADHのメタノールへの反応性向上を試みた.申請者がクライオ電子顕微鏡を用いて解明したADHの立体構造(PDB:8GY2)と,既知のMDHの立体構造(PDB:1W6S)を比較したところ,触媒反応部位であるPQQ近傍に位置する4種の残基が,基質特異性および酵素-基質複合体の安定化に寄与していることが示唆された.そこで,当該残基を置換した単独変異体および多重変異体を作製・評価した結果,いずれの変異体も触媒活性を大きく低下させた.したがって,上記残基がADHの基質認識に関与し,触媒残基として機能することが明らかとなった. 2.電気化学特性の改変に繋がる研究成果 ADHの直接電子移動型酵素電極反応(DET型反応)では,複数のヘムcを介して電子移動経路全体に大きな電位差が生じる.そして,本駆動力が高いDET活性の要因であると示唆されている.そこで,ヘムcを減らして経路を短縮したときのDET活性の変化を探るため,3つのヘムcを保有する”Cサブユニット”を欠損した変異体(ΔC_ADH)の作製を試みた.本変異体の発現および精製に成功し,電気化学評価を行った結果,野生型と比較して低いDET活性を確認した.したがって,CサブユニットがADHのDET活性に寄与しているという仮説を実証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素工学的手法と電気化学的手法を駆使し,ADHの直接電子移動型酵素電極反応(DET型反応)に寄与する構造的特性を解明できた.具体的には,PQQ近傍の残基が触媒活性に必須であることを明らかにしたことで,酵素の機能改変において,部分構造ではなく全体構造に注目しなければならないという指針を得た.また,ΔC_ADHのDET活性を実証したことで,Cサブユニットの重要性に関する知見を得た上に,バイオ燃料のリサイクルに向けた逆反応の実現可能性が大きく高まった.
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今後の研究の推進方策 |
1.今後は,構造予測ツールであるAlphaFold2を活用し,変異導入が酵素の全体構造に与える影響を評価する.特に,PQQ近傍の基質ポケットの大きさ,およびPQQと触媒残基の距離に着目し,上記ファクターが変動するような変異導入を検討する. 2.今後は,基質とコファクターの式量電位のpH依存性に注目し,速度論と平衡論の両観点からADH変異体の電気化学特性を解析する.また,変異体の構造解析も行い,酵素サイズ縮小が活性や構造に与える影響を評価する.さらに,ΔC_ADHを用いた逆反応(アセトアルデヒドからエタノールへの還元反応)を目指す.また,ヘムc軸配位子であるメチオニン残基の置換変異体を複数作製・評価し,コファクターの電位改変による反応駆動力の向上も目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
市販の消耗品および外注サービスを活用し,研究遂行に必要不可欠な実験材料の準備を整えたことで,使用予定であった備品の購入を先延ばしにしたため.翌年度は,繰り越した助成金を活用し,上記備品の購入を検討している.
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