研究実績の概要 |
ミトコンドリアは細胞内を動き回り頻繁に分裂と融合を繰り返す細胞小器官(オルガネラ)である。ミトコンドリアの起源は細胞内共生した古細菌とされ、古細菌に由来する二重膜と環状のミトコンドリアDNAを持つ。ミトコンドリアの二重膜は膜の動的特性と透過性の調節により、膜の内外でタンパク質を含めたさまざまな分子のやり取りを行う。これにより、ミトコンドリアは多様な細胞代謝・細胞シグナルの反応場としての役割を果たしている。 ミトコンドリアの主要な機能である細胞内エネルギー(ATP)産生を担うタンパク質の一部を除き、大多数のミトコンドリアタンパク質は宿主細胞の核DNAの遺伝情報をもとに産生され、ミトコンドリアへ輸送される。これはミトコンドリアの自立的な複製を阻止し安全に共生関係を維持するために、ミトコンドリアがかつて保有していた因子群を宿主の管理下へ置いたためと推察されている。この仕組みに加え、細胞にはミトコンドリアの状態を監視し、異常時には適切に排斥する仕組みが存在する。そこで本研究では、宿主細胞との境界面であるミトコンドリア外膜に着目し、外膜タンパク質(例としてPINK1, MAVS, Mffなど)の生化学的変化(相互作用, 翻訳後修飾, 複合体形成)を統合的に解析することで、宿主細胞が外膜タンパク質を介してミトコンドリアを制御し、異常時には適切に排斥する分子機構の全体像の理解を目指した。 本年度実施した研究内容と成果は以下の通りである。 1. ミトコンドリア濃縮画分を用いた二次元Blue-Native/SDS-PAGEの解析系を立ち上げた。今後は、ミトコンドリア外膜タンパク質をハブとした複合体形成・構成因子の遷移を捉えることで、ミトコンドリアの表面で起こる素反応から細胞適応の本質的な理解を目指す。 2. CRISPR/Cas9を用い遺伝子欠損細胞の作製を行った。今後は1. を含めた解析へ進める。
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