研究課題
多発性硬化症は若年成人に好発する神経脱髄性疾患であり、T細胞やB細胞などのリンパ球、活性化ミクログリアやマクロファージなど様々な免疫系細胞が病態発現に関与することが知られている。近年、多発性硬化症患者末梢血におけるGPR3発現低下と病態予後不良との関連が報告され、GPR3が多発性硬化症のバイオマーカーとなり得る可能性が示唆された。一方、GPR3はリガンド非存在下でcAMPレベルを維持する恒常的Gs活性化型受容体であり、申請者らはGPR3がT細胞に発現し、細胞刺激後早期に発現増加することやエフェクターT細胞に抑制的作用を示す可能性を報告している。しかしながら、GPR3の発現変化が多発性硬化症病態に与える影響やメカニズムについて、これまで明らかにされていない。そこで申請者は多発性硬化症とT細胞に着目し、GPR3が多発性硬化症に与える影響を明らかにすることを研究目的とした。本年度は、まずGPR3発現がサイトカイン産生に与える影響を検討した。野生型マウスおよびGPR3ノックアウトマウスよりCD4陽性T細胞を分離しサイトカインアレイを用いてサイトカイン産生を比較検討した。その結果、野生型と比較してGPR3ノックアウトマウスではIL-17A、IL-17F、IL-22の産生減少傾向を確認した。さらに、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を用いた検討を行った。予備的検討により、野生型マウスと比較して、GPR3ノックアウトマウスではEAE臨床スコアの増悪傾向を認めた。しかしながら、既報の方法を基に誘導方法を変更したところより強いEAE臨床スコアの増悪を示し、その結果GPR3ノックアウトマウスで確認されたEAE臨床スコアの増悪傾向が消失した。
3: やや遅れている
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、ミエリンペプチドで免疫することで誘導される多発性硬化症の動物モデルであり、マウスの系統、抗原の種類、試薬の調整(エマルジョンの作製)などの免疫方法や飼育環境などの様々な因子がEAE発症に影響を与えることが知られている。そこで、Bio Protocol(Miyamura S et al., Bio Protoc 2019; Miyamoto K et al., 2001 Nature)を基に手技を変更し再検討したところ、以前よりも野生型マウスでのクリニカルスコアが増悪し、その結果GPR3ノックアウトマウスで以前確認されたEAE増悪傾向が消失した。現在、GPR3ノックアウトマウスにおいてEAE病態評価に適した条件を再検討している。そのため、本年度はEAE病態下におけるGPR3 mRNA発現変化を比較検討する予定であったが試行できておらず、当初の計画よりもやや遅れている。
最終年度は、GPR3発現がエフェクターT細胞分化に与える影響について検討する。さらに、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを作製し、野生型マウスおよびGPR3ノックアウトマウスを用いてEAE病態下におけるGPR3発現変化やエフェクターT細胞分化、サイトカイン産生に与える影響についても検討を加える。また、多発性硬化症は障害局所への免疫細胞浸潤や活性化ミクログリア・マクロファージが病態に影響を与えるため、EAE病態下においてGPR3がこれらの作用に与える影響についても検討を進める予定である。
本年度は実験計画がやや遅れ、薬品や抗体などの試薬の購入数が当初の計画と異なったため、次年度使用が生じた。次年度は本年度使用予定であった試薬に加え、実験動物の購入費・飼育費に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Journal of Pharmacological Sciences
巻: 153 ページ: 55~67
10.1016/j.jphs.2023.06.004