有機合成化学は分子の共有結合を精密に構築する方法論をもたらす唯一の学問領域であり、医薬品や機能性材料など我々の生活に不可欠な化合物の創出に貢献してきた。これまで様々な分子変換反応が開発されているものの、主には化学的反応性の高い共有結合(炭素-ハロゲン結合、カルボニル基、ヘテロ元素同士の結合など)が反応の標的とされてきた。これに対して、安定性が高い化学結合(炭素-水素、炭素-酸素、炭素-窒素結合など、不活性結合とも呼ばれる)に焦点を当てた変換反応は十分に開拓されていない。このような安定性の高い共有結合を精密に変換することができれば、従来の有機合成化学の刷新に繋がるため、近年多くの関心を集めている。不活性結合の変換はC-H結合活性化反応に代表される遷移金属触媒を用いた方法が主流であり、有機触媒を利用した反応は殆ど開拓されていない。有機触媒は金属触媒とは全く異なる分子活性化様式を取るため、基質適用範囲や官能基許容性拡大の観点から、有機触媒反応系の開発が望まれている。そこで2023年度は、有機超塩基を用いた炭素-酸素結合変換反応の開発に取り組んだ。 具体的には、種々のエトキシアレーンを出発物質として脱エチル化を伴う求核置換反応を取り上げた。本反応では添加剤に加えて、溶媒の選択が反応の進行に非常に重要であることが分かった。さらに、本反応はエトキシアレーンに留まらず、メトキシアレーンやベンジルオキシアレーンの変換反応に適用できることが分かった。
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