研究課題
シスプラチンは多くの悪性固形腫瘍に対するキードラッグとして用いられる白金製剤である。一方で、副作用として高頻度に起こる腎障害は、原疾患に対する治療の妨げになるだけではなく、患者のquality of lifeを著しく低下させるため、臨床上そのコントロールが非常に重要である。しかし、現在有効な予防法はなく、新たな予防戦略の開発が求められている。研究代表者はこれまでの検討によりシスプラチン誘発腎障害モデルマウスに糖尿病治療薬であるSGLT2阻害剤を併用することで、腎障害が抑制されることを明らかにしている。本研究の目的は、SGLT2阻害剤併用による腎障害抑制の作用機序を明らかにすることで、シスプラチン投与患者に対する腎障害予防薬の開発につながる基礎的知見を集積することである。シスプラチン誘発腎障害は、腎臓近位尿細管細胞へのシスプラチンの蓄積量に依存して腎障害が増悪することが知られている。そこで、シスプラチン(15 mg/kg)を腹腔内投与することによりシスプラチン誘発腎障害モデルマウスを作製し、SGLT2阻害剤の併用による腎臓内のシスプラチン蓄積量に対する影響を検討した。その結果、SGLT2阻害剤併用群では、シスプラチン単独投与群と比較してシスプラチンの腎臓内蓄積量が減少することが明らかになった。SGLT2阻害剤併用によって、シスプラチンの排泄量が増加し、近位尿細管細胞へのシスプラチン蓄積量が減少することで、腎障害が軽減する可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、SGLT2阻害薬におけるシスプラチン誘発腎障害の抑制効果を検証するために、シスプラチン誘発腎障害モデルマウスを用いた薬効評価を行った。シスプラチン誘発腎障害モデルマウス (シスプラチン15 mg/kg腹腔内投与) を作製し、シスプラチン投与8及び72時間後に血清、尿および腎臓を採取した。SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)などの各種試薬はシスプラチン投与24時間前から2回もしくは4回経口投与し、腎障害の程度を各種腎機能パラメーター(BUN、クレアチニンクリアランス)により評価した。シスプラチン蓄積量の変化はICP質量分析法による定量を用いて評価した。モデルマウスを用いた検討では、シスプラチン投与により、腎機能障害及び腎臓中のシスプラチン蓄積が認められた。SGLT2阻害薬投与により、腎臓中のシスプラチン蓄積量は有意に減少し、シスプラチン誘発腎機能障害が抑制される結果が得られた。以上よりおおむね順調に進展していると評価した。
2023年度は、SGLT2阻害薬におけるシスプラチン誘発腎障害の抑制効果について、シスプラチン誘発腎障害モデルマウスを用いて検証した。2024年度は、SGLT2阻害薬における腎障害抑制の作用機序について、シスプラチン蓄積抑制の鍵となるmultidrug and toxic compound extrusion(MATE) 型輸送体を含む膜輸送複合体(トランスポートソーム) に着目し検証を行う。
研究プロジェクトが予想以上に順調に進行し、予想よりも低コストで目標を達成できたため、次年度使用額が生じた。翌年度の研究費と合わせて、実験用試薬などの消耗品費として使用する予定である。
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Clinical and translational science
巻: 16 ページ: 2369-2381
10.1111/cts.13638