研究課題
活性イオウは、ヒトを初めとする哺乳類生体内において新たに発見された分子であり、同分子の細胞内エネルギー代謝への関与が報告されていたが、免疫細胞、特にT細胞における活性イオウ代謝の役割は不明であった。申請者はこれまで、活性イオウ分子の産生量が半減したCars2+/- CD4+ T細胞では、G0期からG1-M期へのセルサイクルエントリーが亢進し細胞増殖が促されることで、大腸炎の悪化に結びつくことを示してきた。本年度は、活性イオウ代謝によるT細胞の細胞増殖制御メカニズムを、細胞増殖制御因子を網羅的に解析することで探索した。その結果、Cars2+/- CD4+ T細胞では、細胞増殖抑制因子であるp53の遺伝子発現量が減少することを見出した。すなわち、Cars2+/- T細胞において認められた細胞周期の亢進は、p53の発現量低下に起因することを示唆する結果が得られた。また、ゲノムデータの再解析により、ヒトクローン病患者由来T細胞の遺伝子発現変動を比較したところ、クローン病患者由来T細胞ではCARS2遺伝子発現量が、健常者に比べ低下していることが示された。つまり、CARS2の発現低下が炎症性腸疾患の発症・重症化と相関することをマウスのみならずヒトにおいても確認することが出来た。本年度に得られた知見を基に、次年度は、活性イオウ代謝によるT細胞の増殖制御機構をタンパク発現レベルで解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究目的である活性イオウ代謝によるT細胞増殖機構の分子制御メカニズムの解析、およびクローン病患者由来T細胞における活性イオウ関連遺伝子の発現評価を行うことができ、おおむね計画通りに進展していると評価できる。
CARS2の機能低下により、p53遺伝子の発現量が低下することが示された。そこで、p53のタンパク発現量について解析する。また、ヒトクローン病患者由来T細胞においてCARS2以外にも遺伝子発現変動の認められる分子が存在するか探索する。
令和6年度使用のため、余剰金を繰り越しした。
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