研究課題/領域番号 |
23K19486
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
中村 浩之 札幌医科大学, 医学部, 助教 (30832357)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / インターフェロン / LAMP3 / TLR7 / TLR4 |
研究実績の概要 |
先行研究において研究者らは、ウイルスに対する過剰な1型インターフェロン応答の結果、シェーグレン症候群患者の唾液腺上皮細胞にlysosome-associated membrane protein 3 (LAMP3) が異所性発現し、唾液腺上皮細胞のアポトーシスやダメージ関連分子パターンの放出を促進することが明らかとした。 本研究ではさらに、唾液腺上皮細胞にLAMP3を強制発現させたとき1型インターフェロンであるIFNαとIFNβの発現が亢進することを明らかにした。一方で、IL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインやCCL3、CCL4、CCL5、CX3CL1などのケモカインの産生増加は認めなかった。またLAMP3を強制発現させた唾液腺上皮細胞では、TLR7の異所性発現が誘導されており、マウスの唾液腺にLAMP3を過剰発現させた動物実験においても同様のTLR7の異所性発現が確認された。またLAMP3を過剰発現させたマウスの唾液腺では1型インターフェロン応答が増強しているが、それはTLR7のノックアウトによって是正された。すなわちLAMP3はTLR7の発現誘導を介して唾液腺上皮細胞の1型インターフェロン産生を促進していると考えられた。 さらにLAMP3発現唾液腺上皮細胞の培養上清で単球系細胞株のTHP-1を刺激したとき、THP-1のIFNβ発現が亢進がした。一方でTHP-1をTLR4シグナルの阻害剤であるTAK-242で前処理したときIFNβの発現亢進は生じなかった。そのためLAMP3発現唾液腺上皮細胞は、TLR4アゴニストとなりうるダメージ関連分子パターンの放出を介して、単球のIFNβ産生を促進していると考えられた。 以上から唾液腺上皮の異所性LAMP3発現は1型インターフェロン産生を増幅し、全身性自己免疫疾患の発症に寄与していると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
国際共同研究機関である米国国立歯科・頭蓋顔面研究所との協力、業務分担によって研究が円滑に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト唾液腺のbulkおよびsingle cell RNA-sequencing dataにおいて、腺限局型のシェーグレン症候群、全身性シェーグレン患者、また他の自己免疫疾患を合併したシェーグレン症候群(二次性シェーグレン症候群)において、それぞれの遺伝子発現レベルを網羅的に比較し、LAMP3以外に全身性自己免疫疾患への進展に関連しうる分子の候補をスクリーニングする。その候補分子が病態に与える影響やLAMP3との相互作用などを解析し、唾液腺上皮の異常から免疫寛容の破綻が生じるメカニズムをさらに明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は無償で公開されているデータセットを利用したコンピューターを用いたデータ解析に集中し、また国際共同研究を推進し適切な業務分担を行ったことで、当施設で実際に行う実験負担が軽減し、必要な物品費の支出が減少した。次年度にはデータ解析から導き出した仮説の検証実験を多く行う必要があり、物品費を繰り越しした。また効率的な国際共同研究を継続するため研究計画の共有と適切な業務分担を行う必要があり、共同研究者とのミーティングを含めた国際学会出張旅費の支出が増える見込みである。
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