研究課題/領域番号 |
23K19491
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
大石 康平 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (10976872)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | ハンタウイルス / エンドヌクレアーゼ / cap-snatching / リバースジェネティクス |
研究実績の概要 |
ハンタウイルスはブニヤウイルス目に属するRNAウイルスであり、ヒトにおいて高い病原性を示し、また有効な治療法やワクチンが確立されていないことからその病原性解析は重要であると考えられる。しかしながら、その研究は決して進んでいるとは言い難く、その一番の理由としてハンタウイルスはウイルス人工合成系が確立していないことが挙げられる。ハンタウイルスの人工合成ができない原因の一つとして、ウイルス増殖に必須なポリメラーゼタンパク質であるLタンパク質がそのエンドヌクレアーゼ活性により自身のmRNAを分解することでLタンパク質の発現が安定しないことが考えられる。そこで本研究ではエンドヌクレアーゼ活性阻害剤やLの変異体、人工タンパク質発現スイッチなどを用いてLタンパク質の安定した発現を可能にし、それによりハンタウイルスの人工合成系を確立することを目的とする。
はじめに幾つかのハンタウイルスを様々な細胞を用いて増やしたのちに、ウイルス粒子にパッケージングされているウイルスゲノム配列を次世代シークエンス法により決定した。これによりハンタウイルスのゲノム配列を末端まで正しく決定することができた。
次に次世代シークエンス法により決定したウイルスゲノム配列をもとに、ウイルスゲノムやウイルスタンパク質を発現するプラスミドを作製した。これらのプラスミドを用いて哺乳類細胞における各ウイルスタンパク質の発現を試みると、先行研究から予測される通りLタンパク質の発現のみ確認することができなかった。そこで、異なるプロモーターやIRESを有するプラスミドを用いた解析を繰り返した結果、T7プロモーターおよびIRESの下流にエンドヌクレアーゼ活性を欠損した変異体Lをコードするプラスミドを用いた場合のみLタンパク質の発現が検出できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が所属する研究所に保管されていたハンタウイルスストックをもとに様々な細胞を用いてウイルスを増やし、ウイルスゲノム配列の決定を行った。その結果、末端配列まで十分な信頼性を持ってウイルスゲノム配列を決定することができた。また興味深いことに、幾つかの細胞を用いてウイルスを増やした際にはウイルスゲノムの末端配列が削れた機能的ではないウイルスゲノムが発現し、それらの一部がウイルス粒子に取り込まれていることが明らかとなった。他研究者によりWebsiteにアップロードされたウイルスゲノム配列を確認すると、その幾つかはこれらのように末端配列が欠損しているものであり本来のウイルスゲノム全長の配列ではない可能性が高いため、今回自身の手で決定したウイルスゲノム配列をもとにウイルスゲノムやタンパク質を発現するプラスミドの作製を行った。 得られたウイルスゲノム配列の情報からウイルスタンパク質を発現するプラスミドを作製し、それらを用い哺乳類細胞におけるウイルスタンパク質の発現を試みた。すると先行研究の通り、NおよびGPの発現は確認できたものの、Lタンパク質の発現は確認することができなかった。先行研究ではエンドヌクレアーゼ活性部位に変異を導入した変異体Lを大腸菌もしくはバキュロウイルスを用いて発現していたため、様々なプロモーターやIRESを有するプラスミドを用いて哺乳類細胞におけるLタンパク質の発現を試みた。その結果、T7プロモーターおよびIRESの下流にエンドヌクレアーゼ活性を欠損した変異体Lをコードするプラスミドを用いた場合のみLタンパク質の発現を確認することができた。他のプラスミドを用いてもエンドヌクレアーゼ活性を欠損した変異体Lの発現が見られなかったことから、Lを発現させるにはそのエンドヌクレアーゼ活性を阻害するだけではなく、プロモーターなど適切な機構を用いる必要があることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
様々なプラスミドを用いた解析の結果、T7プロモーターおよびIRESの下流にエンドヌクレアーゼ活性を欠損した変異体Lをコードするプラスミドを用いた場合のみLタンパク質の発現を確認することができた。これらの結果からLタンパク質はエンドヌクレアーゼ活性により自身のmRNA分解を行なっており、仮説の通りエンドヌクレアーゼ活性を制御する事でLタンパク質の発現量を調節することが可能であると考えられる。
そこではじめに市販のインフルエンザウイルスのエンドヌクレアーゼ活性に対する阻害剤を用いてLタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性阻害およびそれに伴うタンパク質の発現増加について検証する。インフルエンザウイルスはハンタウイルスと同様にエンドヌクレアーゼ活性によりウイルスゲノムの転写を行い、それらのエンドヌクレアーゼ活性部位は相同性が高いため、この阻害剤がハンタウイルスにも効果を示す可能性は十分にある。阻害剤によりエンドヌクレアーゼ活性をある程度阻害することにより、Lタンパク質の発現量を増加させることができるか検証する。次にLタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性部位周辺に変異を導入し、その活性を中程度もしくは僅かに低下させる。それにより活性をある程度維持しつつも、発現量が多いLタンパク質を作製することができると予想する。
上記の方法によりLタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性を制御し、その発現量を増加させることができれば、ウイルスゲノム発現プラスミドおよびウイルスタンパク質発現プラスミドを用いてウイルス人工合成を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者の所属する研究所においてハンタウイルスの研究は20年近くされておらず、またウイルスゲノムのクローニングなどはこれまで一度も行われていなかった。そのため、ウイルスゲノムやウイルスタンパク質をコードしたプラスミドを作製するにあたり機関承認申請、さらにウイルスレスキューシステムの開発に際して大臣確認申請がそれぞれ必要となる。これら事前に必要な遺伝子組換え申請を行なったり、他大学から異なるハンタウイルスを分与して頂きそこから新たなウイルスストックを作製したりと、研究の立ち上げに必要な工程が多かったため、研究費交付から数か月の現時点では使用した研究費は部分的である。しかしながら、立ち上げに必要な書類関係の手続きなどが完遂したため、今後は計画的に研究費を執行していくことが可能であると考える。
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