研究課題
本研究の目的はT細胞に発現している共刺激分子であるinducible co-stimulator (ICOS) およびこのリガンドであるICOS ligand (ICOSL) の皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)における役割・機能を明らかにすることである。これまでICOS-ICOSLの相互作用によりCTCLの腫瘍細胞の増殖、遊走、生存が促進されているか、皮膚および末梢血中の異型リンパ球について検討を行った。初めにCTCL患者の病変部皮膚、末梢血の異型リンパ球をそれぞれ回収し、腫瘍細胞におけるICOS、ICOSLそれぞれの発現を健常者と比較した。皮膚組織における発現はmRNA量、HE染色によりその発現量および偏在を、末梢血リンパ球における発現はフローサイトメトリー法により評価した。CTCL患者の病変皮膚および異型リンパ球はICOS、ICOSLを共発現し、その発現量は健常者より有意に上昇していた。次にヒト由来のCTCL細胞株による検討を加えた。フローサイトメトリー法により各細胞株がICOS、ICOSLを共発現していることが確認された。さらに、抗ICOS中和抗体、抗ICOSL中和抗体で刺激しながら一定時間培養することで細胞増殖が有意に抑制され、各中和抗体によりアポトーシスが誘導されることが確認できた。中和抗体で刺激しながら培養したCTCL細胞株から抽出液を精製し、シグナル伝達物質のリン酸化に対する影響をウェスタンブロッティング法により評価したところ、AKT、ERK、p38 MAPK、JNKのリン酸化が有意に抑制されていた。免疫不全モデルマウスを用いた実験により中和抗体が細胞株増殖を抑制することがin vivoにおいても確認された。以上から、ICOS、ICOSLがCTCLの腫瘍細胞に共発現し、細胞増殖、生存に重要な役割を担っていることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
ICOSおよびICOSLが皮膚T細胞リンパ腫の腫瘍細胞に発現し、増殖や生存に重要な役割を担うことが確認できた。当初の予定通り研究は進行している。
ICOS-ICOSLの下流における影響を検索するため、CTCL細胞株からRNAを抽出しシークエンス解析を行う。さらに、CTCL細胞株から精製したクロマチンに対して特異抗体を用いて免疫沈降を行う。沈降後に得られた断片DNAに対して定量PCRを行い、ICOSLのプロモーター領域に結合するタンパク質を同定する。特異抗体としてNF-κBファミリーであるRelAないしRelBに対する抗体の使用を検討している。
物品調達の工夫により当初の計画よりも費用が節約できたため次年度使用額が生じた。翌年度分の助成金と合わせてICOS・ICOSLシグナルの上流・下流をシークエンス解析、免疫沈降法により探索し、検索しえた経路とCTCL細胞株における関連を評価する。これによりCTCLの病態をより詳細に解析することが可能になる。
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