研究課題
甲状腺がんはBRAF、RET、NTRKなどの分子標的治療薬のターゲットとなりうるアクショナブルな遺伝子異常の頻度が他の癌腫と比較して高く、がんゲノム医療によるprecision medicineが進行している。がん遺伝子変異により生じた抗原は抗腫瘍免疫の標的となる一方、がん遺伝子変異に起因して様々な免疫逃避機構を有することが知られる。我々はこれまでにmultiplex immunohistochemistry (IHC)を開発し、さらにその画像定量化技術image cytometryを発展させ、1枚の切片から10種類の免疫細胞の組成や性質・分布を定量解析することで、癌の亜分類や予後と相関する腫瘍の免疫的性質を報告してきた。甲状腺濾胞癌においては被膜浸潤部の特異的な免疫環境を明らかにし、過去の甲状腺乳頭癌の免疫機構解析と合わせて、甲状腺癌の悪性形質や進行への免疫の関与の可能性を報告してきた。本研究では、甲状腺がん遺伝子異常に対応した癌微小免疫環境を明らかにすることで、甲状腺がんの進行機序を免疫学的見地から調べ、分子標的治療と免疫療法を組み合わせる候補となる微小環境特性など、個別化医療につながる組織バイオマーカーの同定を目的とする。令和5年度は遺伝子変異と微小免疫環境の関連性を探索するため、xCellアルゴリズムを用いてTCGAのbulk RNAseqデータから組織中の各免疫細胞頻度を予測し、甲状腺乳頭癌391例について遺伝子変異と免疫環境について解析した。これらの研究成果の一部を、第48回頭頸部癌学会で発表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
甲状腺癌における遺伝子異常と免疫環境の関連をTCGAのデータを用いて探索することができた。
令和5年度から継続して、甲状腺がん遺伝子異常に対応した癌微小免疫環境に関して下記の探索を行なう。・癌遺伝子異常の解析:京都府立医科大学附属病院で手術をした症例の臨床情報の収集と、免疫組織化学を用いて遺伝子異常の有無を検索する。・甲状腺分化癌の免疫細胞組成解析・免疫的組織構造解析:Saburi et al. Modern Pathology 2022で確立した甲状腺癌免疫解析パネルを用いて、CD8陽性T細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞など免疫細胞の細胞密度・組成、更にPDL1・PD1の発現について調べる。得られたデータを解析し、多重免疫染色法で位置情報の解析が可能であることを活用し、腫瘍の中心部や辺縁部、周囲の正常組織など亜部位における免疫細胞の分布情報を取得する・細胞間距離の数値化:得られたデータを解析し、特定の2種類の細胞間の距離を細胞密度と独立して数値化することによって、細胞間の相互作用の強度を評価する。・遺伝子異常と免疫的微小環境の検討:上記で得られたデータを解析し、遺伝子異常に対応した免疫環境の差異を同定、検討する。この中で、利用可能な病理学的浸潤性、臨床病期や予後情報との相関も検討する。解析結果に基づき、甲状腺癌の治療選択や予後予測に関連する組織バイオマーカーの同定を行う。
上記の通り計画通りに進行したが、データ解析を優先し、試薬購入費に余剰が出たため、1,034,700円の残額が生じた。来年度の研究計画である免疫組織化学解析で使用する抗体購入費に充てる予定である。
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